渋谷に炸裂する現代最強の詩人・秋元康のセンス

今回の「心のベストテン」は欅坂46と秋元康さんをとりあげます。デビューシングル「サイレントマジョリティー」は女性アーティストのデビューシングル初週売上で歴代1位を記録し、デビューからわずか8ヶ月で紅白出場を果たすなど今最も勢いのあるグループ。欅坂46の曲といえば「渋谷」がキーワードになっているものが多い印象がありますが、そこから読み解く秋元康さんの目指す先とは？
芸人、DJとして活躍されているダイノジ・大谷ノブ彦さんと、音楽ジャーナリストの柴那典さんの熱い対談をお楽しみください。

欅坂46＝堤清二＋尾崎豊

柴那典（以下、柴）　もう何度も言ってきたことですけど、秋元康さんって、やっぱりとんでもない人だなって思うんですよ。

大谷ノブ彦（以下、大谷）　おっ。ひょっとして欅坂46のことですか？

柴　そうそう。前に「AKB48の歌詞は女の子たちの観察日記として書いている」という話をしたじゃないですか。でも、欅坂46ではまったく書き方を変えてきた。どっちかと言うと「詩人・秋元康」のセンスが爆発してるというか。大谷さん、「二人セゾン」はどうでした？

大谷　僕はどうしてもこの曲、90年代の渋谷系と重ねちゃうんですよ。それを今の時代にアップデートしたような感じがする。

柴　たしかに欅坂46の曲って、ほとんど「渋谷」がキーワードになってるんですよね。デビュー曲の「サイレントマジョリティー」はMVを渋谷駅の工事現場で撮っている。

大谷　そのカップリングが「渋谷川」だしね。

柴　そうなんですよ。「君は知ってるかい？　渋谷川って…」って歌っているんだけど、まさにあの工事現場の地下を流れているのが渋谷川だったりする。

大谷　たしかにね。そういえば『世界には愛しかない』のカップリングには「渋谷からPARCOが消えた日」が入っている。

柴　そうそう。いろんな曲で渋谷の再開発がテーマになっている。ということは、つまり、僕の仮説では、秋元康は現代の堤清二になろうとしているんじゃないだろうか？と思ってるんです。

大谷　え？　何？　どういうこと？

柴　堤清二って、セゾングループの創業者の方じゃないですか。

大谷　たしかに。西武百貨店からパルコを作った人ですよね。

柴　だから「二人セゾン」も、堤清二の作った「セゾン文化」へのオマージュなんじゃないかと思うんです。歌詞も「日常を輝かせる」「生きるとは変わること」みたいに、すごくデパートの広告キャッチコピーっぽい。

大谷　なるほど。糸井重里さんの「おいしい生活」みたいなね。

柴　しかも堤清二さんって、実業家でもありつつ辻井喬のペンネームで詩人や小説家としても名を成した人で。そういうところも今の秋元康さんの立ち位置と重なるところがある。

大谷　というと？

柴　秋元康さんって、これまでは阿久悠とか松本隆のような大御所の作詞家をライバルにしていたと思うんです。でもAKB48以降、少なくとも数字的には日本のポップス史上最強の作詞家になってしまった。だとしたら、次に目指すのは堤清二／辻井喬なんじゃないか？という。

大谷　歌詞だけじゃなくて文化的なものを作るということですか？

柴　そうそう。実際、堤清二さんがセゾン文化を作ったのと同じように、秋元康さんが今のアイドル文化のフォーマットを作ったわけですからね。そういう意味でも、欅坂46の一連の曲には「堤清二／辻井喬トリビュート」を感じる。

大谷　でも柴さん、欅坂46にはもう一つ大事なキーワードがあるんですよ。

柴　え？　なんですか？

大谷　尾崎豊。僕から見たら欅坂46には尾崎豊へのオマージュを感じるな。

柴　あー、なるほど。「サイレントマジョリティー」にしても「大人は信じてくれない」にしても、尾崎豊的な「大人への反抗」というのが大きなモチーフになっている。

大谷　しかも尾崎豊の歌の舞台も、セゾン文化が生まれた80年代の渋谷ですからね。「Scrambling Rock'n' Roll」という曲があって、あれは渋谷のスクランブル交差点のことを歌ったと言われている。

柴　たしかに。「Scramble交差点では　心を閉ざし解りあうことがない」って歌っている。

大谷　尾崎豊の原風景って、青山学院から駅に歩く途中で見ていたという渋谷の夕焼けの空なんですよ。だから渋谷に尾崎豊の記念碑がある。

柴　金王坂のふもと、今の渋谷クロスタワーが立っているあたりですね。

大谷　あ！　そうか！　ちょっとすごいことに気付いたんですけど。

柴　なんですか？

大谷　これ、渋谷の駅を挟んで両側の坂じゃないですか。

柴　あ、たしかに。PARCOがあってセゾン文化の象徴になったのは渋谷の公園通りですよね。あれは西口で、駅を挟んだ向かい側に尾崎豊の金王坂がある。

大谷　でしょ？　だから「渋谷系」どころか、渋谷をまるごと征服しようとしてる。

柴　ははは！　しかも、その坂に囲まれた谷底の渋谷駅で「サイレントマジョリティー」のMVを撮影してるわけですもんね。すべてが点と点でつながる。

大谷　恐ろしい！

柴　こうやって深読みしていくと、改めて、秋元康さんってとんでもないですね。鳥肌立ちました。