火曜日, 3月 21, 2017

椎名林檎、カルテット、ポルカドットスティングレイ

 

 

椎名林檎が『カルテット』主題歌でつらぬいたプロの掟



人気ドラマ『カルテット』の主題歌で、松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平が歌った楽曲「おとなの掟」について、作詞・作曲を手掛けた椎名林檎の凄みを、柴さんが読み解きます。
芸人、DJとして活躍されているダイノジ・大谷ノブ彦さんと、音楽ジャーナリストの柴那典さんの響きあうナビゲーションをお楽しみください。



 

椎名林檎の徹底した世界観


柴那典(以下、柴) ドラマ『カルテット』、いよいよ今日が最終回ですね。ドラマもすごくおもしろいんですけど、主題歌の『おとなの掟』が最高で。あれヤバくないですか?





大谷ノブ彦(以下、大谷) 半端ないですよね! ハマっちゃって何度も聴いちゃいました。



 曲は椎名林檎の書き下ろしなんですけれど、歌ってるのは出演してる松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平の4人で。彼らが劇中で組んでる弦楽四重奏団の名前が「カルテットドーナツホール」だから、この曲の名義も 「Doughnuts Hole」になってる。

大谷 完全にドラマありきの曲ですよね。

 しかも歌詞の言葉も、ドラマの主題を全部射抜いている。

大谷 「ああ白黒付けるのは恐ろしい」「自由を手にした僕らはグレー」「おとなは秘密を守る」……たしかに!

 『カルテット』っていうドラマには「白黒つけない」、つまり物事の裏表をはっきりさせないというテーマが潜んでるんですよ。4人には全員「裏」があるんです。言えないことがあったり、過去を隠していたりする。だけど、それが明らかになったときに「そんなこと、どうだっていいじゃないですか」って言うところがすごく感動的で。

大谷 わかる。そこグッとくるわ。

 それって、この4人がお互いのダメなところを認めあって、そこを好きあってる関係性だからこそ成り立つんですよね。真ん中に欠点がある。そういう結びつきであるということを「ドーナツの穴」というユニット名が象徴している。で、そういう風に白黒つけないのが大人だし、人生の豊かさであるってところまで、この楽曲は踏み込んでいる。

大谷 シビれるなあ!

 これぞ「主題歌」ですよね。

大谷 そもそも椎名林檎って、デビューした頃から自分の音楽をある種のプロジェクトとしてやってきた人ですよね。

 「歌舞伎町の女王」がまさにそうでしたね。自分で舞台を作ってその中の登場人物を演じるような曲を歌ってきた。「新宿系自作自演屋」を名乗ってた。





大谷 ただ、一気にブレイクした後に3枚目の『加爾基 精液 栗ノ花』を出したじゃないですか。あのアルバムって、音楽好きの中では評価が高かったですけど、大衆にはそんなに理解されなかったと思うんですよ。ちょっと難しかったというか。

 その前2作の『無罪モラトリアム』『勝訴ストリップ』よりセールスの数字は落ちましたよね。

大谷 そこからソロを止めて東京事変というバンドを始めたわけですもんね。でも、最近になってリオ五輪の閉会式での引き継ぎ式のパフォーマンスの企画と演出をしたりして、その頃に彼女が突き詰めてたものがすごく大衆に届いている感じがするんですよね。

 去年の紅白歌合戦もそうでしたね。おもしろいのが、「椎名林檎深読み班」っていうのがネット上にいて。

大谷 あはは、なんだそれ。

 僕が勝手に名付けたんですけど、椎名林檎の行動の細かい部分に意味を見つけてツイートする人たちがいるんです。紅白の時も、出演時間が20時16分から20時20分だったのは、2016から2020へのオリンピックの布石である」って言ってる人がいた。本当かよ?っていう(笑)。

大谷 意外と説得力あるなあ(笑)。オリンピックに対しても、クオリティの低いものをやってしまったら日本という国が誤解されてしまうって危機感を、いろんなところで言っていましたもんね。

 なんで「深読み班」が出てくるかって言うと、椎名林檎のクリエィティブが基本的にそうだからなんですよね。コンセプトがしっかりあって、細かい部分にまでそれが徹底している。彼女のクリエイティブのすべてに貫かれているのは「いい加減なことをするな。コンセプトをしっかり立てて、ディティールにこだわれ」なんですよ。

大谷 プロフェッショナルであれと。

 彼女はこれを全部のプロジェクトで実践しているんです。特に『加爾基 精液 栗ノ花』はそれを徹底した作品で、曲の配置とか、ブックレットの写真とか、アルバムの全部の要素がシンメトリーに配置されている。おまけにアルバムの収録時間も「44分44秒」で左右対称形になっている。

大谷 そうそう、そうだった。すごいよなあ!

 「おとなの掟」でも、歌詞を縦書きで書いたときの一行の文字数がぴったり揃うようになっていたりする。単なるミュージシャンというより、演出家とかクリエイティブ・ディレクターの気質なんですよね。
 だから、ソロではそれが自分の世界をプロデュースして歌うというところに結びつくわけだけど、楽曲提供とか五輪関係のプロジェクトでは、そっち側の才能が爆発する。本当に偉大だと思いますね。

 

椎名林檎に薫陶をうけたであろうバンド

大谷 そういえば、柴さん、この前、ポルカドットスティングレイのライブに行ったでしょう? 僕も行きたかったなー。

 今、ライブのチケット全然とれないバンドですもんね。すごい勢いで人気が伸びてる。僕もYouTubeでMV観てからハマったタイプで。

大谷 ポルカドットスティングレイって椎名林檎と同じ福岡出身のバンドじゃないですか。だからかもしれないけれど、椎名林檎に影響を受けてるのかなって感じるんですよ。

 それはきっとあると思います。

大谷 椎名林檎の『丸の内サディスティック』の中に「そしたらベンジー、あたしをグレッチで殴って」という歌詞があるじゃないですか。僕は勝手にグレッチソングと呼んでいるんですけど

 あははは。ギターのね。

大谷 ポルカドットスティングレイの『テレキャスターストライプ』はテレキャスターソングだなって。






 実際、このMVでボーカルの雫さんが持ってるライトグリーンのギターも、デューゼルバーグっていうメーカーの椎名林檎が愛用してるモデルと一緒なんですよ。
 僕は最初、このMVを見て、「わ! すごいバンドだ」と思ってライブに行ったんですけど、ライブはMVとは少し違っていて。

大谷 MVを見てるとボーカルの女の子が全部持っていってる感じですよね。

 そうそう。MVでは紅一点の女性ボーカルとバックの男3人って見えるんですけど、ライブで見ると、その男3人もおもしろいんです。

大谷 へえー。

 ギターは高橋一生みたいな雰囲気のイケメンで、ジャズのテイストのあるギターを弾く。ベースはちょっとぽっちゃりで、ドラムはアンタッチャブルの柴田さんみたいな眼鏡キャラで。

大谷 4人ともキャラが立ってるんだ。

 しかもバンドとしてかなり戦略性を持っていて、見せ方や売り方を自分たちで全部考えてやっている。

大谷 というと?

 事務所もレーベルもつかない自主でやってる頃から、MVとかグッズのデザインも全部自分たちで凝ったものを作っていて。しかもちゃんと狙いがある。例えば『エレクトリック・パブリック』という曲のMVがこないだ公開されたんですけど、ストーリー仕立ての映像になっていて。メンバーが扮装して出てくるんですよ。それは普通の新人バンドのMVなんてYouTubeだったら5秒で見て飽きるからって。






 おもしろいのが、前半が終わったら別の扮装をするんですよ。前半で視聴者が見飽きて、止めてしまわないように。

大谷 なるほど。すごく練っているんですね。

 監督は東市篤憲さんがやっているんですけど、アイディアはメンバー発案なんですって。

大谷 椎名林檎って自分のことをかなり客観的に見て演出してますよね。どの言葉が一番キャッチーでどういうビジュアルで、どんなキーで歌えば鮮烈かを想定した上でパフォーマンスしている。ポルカドットスティングレイもその徹底した作り込みは同じ系譜という気がするな。









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