金曜日, 1月 06, 2017

「LHD」Large Helical Device

美しすぎる核融合研究施設「LHD」





世界にはでっかい科学施設があります。
最も有名なのは、スイスのフランス国境近くにある欧州原子核研究機構(CERNセルン)でしょう。地下には全周27kmという巨大な円形加速器があり、それまでは想像の存在でしかなかった「ヒッグス粒子」を「99.9999%以上の確率で発見した」などの成果を上げています(2012年7月/2013年3月に発表)。



『CERN』地下にある「大型ハドロン衝突型加速器」( Large Hadron Collider )



日本は国土が狭いですから、このように大きな科学施設を造ることは容易なことではありません。しかし、実は日本にもでっかい科学施設・装置があるのです。

その一つが岐阜県にある『核融合科学研究所』の「LHD」(大型ヘリカル装置)です。

LHDとはあまり聞いたことのない単語でしょう。LHDはLarge Helical Deviceの略で、「大型のヘリカル・ヘリオトロン型のプラズマ装置」です。


核融合科学研究所の「LHD」全景。その大きさに圧倒されます。


このLHDは、核融合研究のために造られたもので「プラズマ真空容器」「超伝導磁場コイル」「断熱真空容器ベルジャー」から構成されており、高さ約9メートル、直径13.5メートル、重量はなんと約1500トンに達する巨大な装置です。




真空容器組み立て時の貴重な写真。LHDの製作には高い精度が求められました。


LHDは「核融合炉」の開発を目標に掲げ、その基礎実験用に造られた施設です。
核融合炉が実現できれば、水素やヘリウムなど軽い原子を使って核融合反応を行い、膨大なエネルギーを取り出すことができます。

簡単にいえば、太陽が行っていることを人の手でやろうというわけです。












「海水中に豊富にある重水素」を燃料に使うことができますので、特に日本のように、石油・石炭などの化石燃料資源に恵まれない国では、核融合炉の実現は大きな意味を持ちます。

 

超高温プラズマを閉じ込める超伝導コイル


さてこの核融合炉ですが、核融合反応を起こし、それを連続的に維持できないといけません。そのためには「物質を高温(1億度以上)・高密度(1立方メートル当たり10の20乗個以上)」状態にして、「一定時間(1秒以上)閉じ込めておく」必要があるのです。

この1億度以上の高温状態は「高温プラズマ」を生じさせて実現します。プラズマは、原子を構成するイオンや電子がバラバラになった状態のことを指し、固体・液体・気体に次ぐ「第四の状態」と呼ばれます。プラズマというと何か特殊なもののようですが、実は私たちの身近に存在します。蛍光灯やネオンサインなどはその例です。





































































高温プラズマは、そのままでは容器の壁に触れて温度が下がるなど、エネルギーを失ってしまうのです。プラズマを高温・高密度のまま維持するために、

・磁場を利用する
・強力なレーザーを利用する


という方法があります。「LHD」では「磁場を利用する」方式をとっています。

 

磁場を作り出す超伝導コイルの配置。このコイルでプラズマを逃がさないようにします。


ポロイダルコイルが垂直方向の磁場を作り出してプラズマを外側に逃がさないようにします。その上で、ヘリカルコイル磁力線の籠(かご)を作って、その中にプラズマを閉じ込めるのです。
帯電したプラズマ粒子は「磁力線に巻き付くように運動する」という性質があるので、これを利用して真空容器の中にプラズマを閉じ込めるわけです。
 

磁場によって真空容器内でプラズマはこのように閉じ込められます。 ポロイダルコイルの作る垂直磁場を調整するとプラズマの位置をコントールできるのです。プラズマの中心の大半径が3.75mの状態を「標準配位」と呼んでいます。真空容器の中心の大半径が3.9mですのでプラズマはやや内側(LHDの中心寄り)です。



LHDを特徴付けているヘリカルコイル。科学実験施設が美しいというのは不思議な感じがしますね。

















本体内部はこのようになっています。メンテ時には内部も確認します。


 ヘリカルとは三次元の「渦巻き」という意味です。図を見ていただくと分かるとおり、ヘリカルコイルがまるで渦巻きのように組まれていますね。

このヘリカルコイルは「ヘリオトロン配位」という日本が独自に開発した磁場配位を用いており、同じく磁場によってプラズマ閉じ込めを行う「トカマク型」などと比べて、制御における信頼性が格段に向上しています。






実は、このヘリカル型の装置はトカマク型装置よりも歴史自体は古いのですが、実際に製作するには高い工作精度が必要で、なかなか実物を造ることができなかったのです。

核融合科学研究所のLHDは、1990年に建設が開始され、1997年に装置本体が完成しました。翌年の3月には本装置によるファーストプラズマの点火に成功。



これまでの運用で、

・1200万度の高温プラズマを1時間保持

・10兆個/ccの水素プラズマで9400万度を達成(ヘリカル型では世界最高記録)

・300万度で1200兆個/ccの密度を達成




などの成果を挙げています。

核融合研究はLHDでのこれらの成果を基に進められています。
研究者の夢である「太陽を自ら造り上げること」の実現が楽しみです。