火曜日, 12月 06, 2016

ブラッド・ピットについて、誰も知らなかった6つのこと



ブラッド・ピットについて、誰も知らなかった6つのこと

 

FIVE OR SIX THINGS I DIDN'T KNOW ABOUT BRAD PITT

 

 

 

1. ブラッド・ピットは植木を殺してしまう。 


それも植物を餓死させるという、最も非情なタイプの殺し屋だ。ビバリーヒルズにある彼のオフィスの、向かい合ったふたつのコーナーにその証拠がある。水をもらうことをとっくの昔に諦め、骸骨のようにやせ細った植木の残骸だ。10カ月ほど留守にしていたから、と彼は言う。言い訳になっていない説明だ。とにかく、僕には彼がどのように植木を殺したか、それを公表する使命がある。米国市民にはそれを知る権利があるし、それに人間、52歳にもなったら、悪評のひとつやふたつ、ないほうがおかしいだろう。

 
PHOTOGRAPH BY CRAIG McDEAN STYLED BY JASON RIDER

 



僕は「プランB」のオフィスにいる。ピットが2001年に共同設立し、今は所有しているフィルム・プロダクションだ。僕は彼に、建築の知識を披露していいところを見せようと決めていた。ハリケーン・カトリーナで甚大な被害を受けたニューオーリンズのロウワー・ナインス・ワード(下9地区)の再建を手伝っていたときに、ピットが学んだ建築の手法なんかについてだ。僕は建築家の坂茂(ばん しげる)を彼に教えてやろうと考えていた。坂氏はニュージーランドのクライストチャーチの被災地にダンボールの仮設大聖堂を建てたことで有名で、世界中で災害復興支援のプロジェクトに関わっているんだ。でも、ふと見たら、ピットの本棚には坂氏の全作品についての研究本が鎮座してるじゃないか。
 
レコード・プレーヤーのそばには、ジョー・ストラマーがバックバンドのザ・メスカレロスと出したアルバムがあった。そのチョイスには特に驚かなかったが、写真家のダニー・リオン著の『ザ・バイクライダーズ』など、フリンジ(非主流)・カルチャーについての稀き 覯こう本が揃っていたのにはたまげた。なにもピットが大スターだから、世の中のことに多少うとくてもおかしくないという理由で、彼の本のセレクションに驚いたんじゃない。彼が父親だからだ。普通、子どもを持つと真っ先に失われてしまうのがクールさだからね。親になると、ラクなデニムの半ズボンを平気ではくようになっちゃうから。で、彼が立ち上がって握手したときはというと、白いTシャツに白のジーンズ姿で、白いフェルトの中折れ帽を被っていた。父親(Dad)というよりは、映画『ビッグ・リボウスキ』(’98)でジェフ・ブリッジスが演じたデュード(Dude)みたいだった




 
PHOTOGRAPH BY CRAIG McDEAN, STYLED BY JASON RIDER



ジャマイカ人として、僕はピットに言った。
発展途上国の人間は、外国から来た支援者たちの行動にしばしば大笑いせざるをえないと。
「以前、自分がその立場になったことがあるからわかるよ」と彼は認めた。
「でも、誰もが最初は初心者だ。行動しないと何も始まらない」



 
PHOTOGRAPH BY CRAIG McDEAN, STYLED BY JASON RIDER




 2. ブラッド・ピットは、金で幸福は買えないことを知っている。

『ウォー・マシーン(原題)』はこの秋公開されるピットのふたつの作品のうちのひとつで、ジャーナリストのマイケル・ヘイスティングスが米国軍司令部を痛烈に描いたノンフィクション『ザ・オペレーターズ』が原作だ。ときに危険を顧みない米軍の秘密工作任務の実態と、ピット演じる高名な将軍がふと気を許したことによって招いた、とんでもない政治的結末の話だ(彼のもう1本の映画は、ロバート・ゼメキス監督のロマンティックな暗殺スリラー『マリアンヌ』で、これも実話に基づいている)。「この『ウォー・マシーン』は、若い男女を戦場に送り出す判断を下した人間たちを風刺しているんだ」とピットは言う。「上層部の意志決定のプロセスや組織構造の理不尽さ、そして、そこに私利私欲が加わるとバカげたジョークみたいになり、それがいつか取り返しのつかないことにつながっていく―ということを描いた作品だよ」。

悲劇と喜劇のきわどい境界線について語り合ううちに、話題は悲しみや幸福という普遍的なトピックへ、そしてピットが世界の国々を頻繁に旅し、その目で見てきたことへとつながっていった。旅の中で彼が出会った多くの人々は、幸福にアクセスする手段があるようにはとても見えなかった。だが、最も悲惨な状況に置かれていながら、彼らはなぜか、その生活にすっかり満足しているように振る舞っていた。だからこそ、彼のような人間―つまり金と時間に余裕のある人々は、そんな現状をなんとか変えなければという使命感に駆り立てられるのだ、とピットは言う。それはいいことずくめではないし、その点は彼も承知のうえだ。「第三世界のいろんな国に行ったけれど、人々はとてつもなく苦しんでいた。でも、彼らはいつも、誰よりもいちばんよく笑っているように見えたよ」と彼は言う。ジャマイカ人として、また発展途上国支援をする団体の仕事ぶりを何度も見てきた身として、僕は彼に言った。僕らがいちばん笑ってしまうのは、現地の人間が抱えている問題の解決法を、外国人の支援者たちが何ひとつわかってないってことだと。「以前、自分がその立場になったことがあるからわかるよ」と彼は認めた。「でも、誰もが最初は初心者だ。最善を尽くしてとっかかりを見つけ、支援しながら世界を理解していくしかない。現地に入ってはじめて、想像以上に状況は複雑だと気づくんだ。米国の外交政策の失敗は、自分たちの考えをほかの文化にそのままあてはめればいいと思ってきたことにある。他国の文化を真に理解することなしにね」。



3. ブラッド・ピットは、セレブリティが持論を披露することについて、人々がどう思っているか、とてもよくわかっている。

でも、僕がこのインタビューを引き受けた理由のひとつは、恥ずかしながら、世界中に彼が普通のやつだと知らしめる以上のことをやってやろうと思ったからだ。だって、ピットが普通の人間だって考えはどうみてもバカげてるだろう。グーグルで彼の名前を検索すると、ざっと4500万件の結果が出るんだ。「Brad Pit」と、あえて「t」をひとつ抜かして検索したって1000万件近くの検索結果が出る。これって結局、『テルマ&ルイーズ』(’91)でセクシーな泥棒を演じた男が、ちょい役なんてものはこの世に存在しないと証明したってことじゃないだろうか。かつて誰かが、ブラッド・ピットは主演俳優の容姿をもつ性格俳優だと言ったのは有名だし、それは真実だが、彼はハリウッドが生んだ最後の本物の映画スターでもある。僕は彼に、子どもの宿題を見てやるのが好きかどうかなんて聞こうとは思わない。

その代わり、英国がEUを脱退したことをどう思うか聞いた。
「本当に、あんなことが起こるとは想像もしなかった。トランプが大統領になるなんて、とてもじゃないが考えられないのと同じようにね。

簡単に言えば、われわれを団結させるものがいいもので、われわれを分断させるものはよくないってことさ。『マネーショート』にこんな素晴らしい台詞があるんだけど……」と彼。
自らプロデュースし、2008年に起きた世界経済破綻を描いたオスカー受賞作『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のことだ。
「ものごとがうまくいかず、その原因が見つからないとき、われわれは簡単に敵をつくり出す」。敵をつくり出しているとき、われわれは自分の目の前にある存在しか見ていないことが多い。
たとえば同性愛者とか、と僕は言った。
 「あるいは不法移民とかね」とピット。

彼はなにも、病理の一形態としての過激主義や偏見、宗教中心主義や恐怖、あるいはまた、トランプ支持者やキリスト教右派といったものに興味津々だからこんな話をしているわけではない。彼がもし映画スターとして成功しておらず、出身地の州に今もずっと住んでいたら、そんな世界が彼の人生だったかもしれないからだ。「オクラホマやミズーリ南部の出身者として、故郷の人たちがトランプ支持に傾きがちなのを見ると、それがなぜなのか理解したいと思うんだ」。






「どうも、いちばん苦しい状況にある人たちは、自分たちを痛めつけるような政党に投票してしまう傾向があるように思うんだ」と彼は続けた。「だからこそ、彼らがなぜそう考えるのか、理解したいと思う」。

それには金が大いに関係してるんじゃないかな、と僕は言った。
 
たとえば、ルワンダを植民地支配していたベルギーは、ツチによるフツの支配を支援し、両者の間に恨みを募らせ、それが虐殺の引き金になったのではないかと。彼はそれに同意した。
でも、最近、ワシントンD.C.のシンクタンク、ブルッキングス研究所の学者と話した際、ピットは単純に経済だけで紛争の原因を説明することはできないという別の視点も得ていた。「理解しなくちゃいけないのは、われわれのDNAに刻み込まれた何かがあるってことだ。
ほとんどのアメリカ人はCNNやFoxやアルジャジーラを見る時間なんてない。家賃を払うために働き、子どもたちに食事をさせ、家に帰る頃には疲れ果てて何も考えたくなくなっている。そんなときに突然トランプの〝声〞が聞こえてきたら―それが内容のある話じゃなくても、すべてのことにもううんざりだと彼が言うのを聞くと、DNAの何かが反応してしまうんだ」。

それは確かに一理ある。社会の中でどう行動するか、差別や、誰を愛して誰を憎むかという選択をする感情や思考のプロセスすらも偏見の根っこは生物学的なところにある。

でも、だからといって、なぜトランプが言うことを人々は鵜呑みにしてしまうんだ? 「僕がいちばん望みをかけているのは、われわれがグローバルな社会の一員だってことだ。互いが互いを、だんだんと理解し合うようになってきている。でも一方で、孤立と分断への反動も再び生まれているよね」。
ピットは肩をすくめて言う。
多くの人々が孤独を感じているんじゃないか。そして、やはり自分自身の生い立ちから、それがどんな気持ちか、ある程度はわかると。「トランプ支持者は、あらゆるものと戦ってるんだ。でも、自分たちの国を取り戻すって言うけど、それはいったいどういう意味なんだ? 誰かお願いだから説明してよ」。
ピットはいたずらっぽさと、まったくの真剣さが混じり合った瞳で僕を見て言った。
「この国はいったいどこへいくんだ?」。 

僕は世界中に彼が普通のやつだと知らしめるためにこのインタビューを引き受けたんじゃない。
だって、ピットが普通の人間だって考えはどうみてもバカげてるだろう。
グーグルで彼の名前を検索すると、ざっと4500万件の結果が出るんだ



PHOTOGRAPH BY CRAIG McDEAN, STYLED BY JASON RIDER





4. ブラッド・ピットと僕は、メル・ギブソンについて意見が合った。 

ピットの友人で『イングロリアス・バスターズ』(’09)のクエンティン・タランティーノ監督のように、ピットも映画製作をもっぱら映画を観ることで学んだ。そして、それ以上に、映画は彼にとって世界への窓でもあった。「映画が外への扉だった」と彼は言う。「外界から隔絶されたような僻地に住んでいると、映画によって、いきなり世界が目の前に差し出され、異文化に接することになる。しかもこれはインターネットが存在する以前の話だってことを忘れないでほしい。映画というレンズを通して初めて、僕はブルックリンやアイルランドやアフリカの子どもがどんな生活をしているか知ることができたんだよ」。

 
エキゾチックな世界について話していると、彼はポンテオ・ピラトを題材にした映画を作りたいと考えていると言いだした。脚本を読むと、このたいして有能でないローマ帝国の一役人が、彼が嫌っていたやっかいな人間たちに囲まれ、にっちもさっちもいかなくなっている状況が笑えるからだという。ちなみに、イエス・キリストはそれほど多くの場面には出てこないそうだ。「映画『パッション』が好きな人向けじゃないのは確かだ」と彼は言う。あのメル・ギブソン主演の〝受難ポルノ〞大作を見て、僕はキリスト教会に通うのをやめたんだ、と彼に伝えると、ピットは爆笑した。「じぶんはまるで、L・ロン・ハバード(サイエントロジー教会の創設者)のプロパガンダ映画を観ているように感じたよ」とピット。ジヌー(サイエントロジーの教義における秘密の物語)のことはさておき、メル・ギブソンの映画はたいてい、暴力を描くことだけにかけては一級品だ。「それはもう、ものすごいよね」と彼は言った。「『アポカリプト』は傑作だ」。








 5.ブラッド・ピットが「俺も年をとったよ」と言うと、誰がそう言うよりも、ジョークとしての完成度が高い。 

この男が52歳だっていうことをすぐみな忘れてしまう―多分彼の身体が細すぎるからだろう。だが、過去の遺物に興味をもっている子どもたちのおかげで、彼は常に自分の年を意識させられている。
たとえば彼の娘のひとりは、カセットテープが大好きだ。まるでピットとどうお世代の人間が蓄音機に惹かれたり、自分で銀盤写真を撮ってみたりするように。
彼は、映画の撮影現場でも自分の年齢を思い知らされたことがある。「『フューリー』という第二次世界大戦を描いた映画を作っていたときに、一週間ほどブートキャンプをやったんだ。その中でいちばん若かったローガン・ラーマン―彼は21歳だったと思うけど―」が、下級兵士として記録係になった。腕時計をもらった彼は、みんなが食事を何分で食べ終わったか、装備を身につけたり脱いだりするのに何分かかったかを記録する必要があった。ある日、彼が来て、時計が止まってしまったと言った。『ネジをまけばいいんだよ』と言ったら、きっかり15分後に戻ってきて、『ねえ、ネジってどうやって巻くの?』って聞いてきたんだ」。

 

6. ブラッド・ピットはもしかしたら普通の男かもしれない。 

インタビューをスローテンポでのんびりやることの利点は、特に取材相手がオフの日だったりすれば、本当に親しい人間としか話せないような、ある意味で実のある、ある意味ではどうでもいいような話題で盛り上がれるってことだ。それは、ピットがなんでもあけっぴろげに話すということじゃない。所得格差や白人だらけのハリウッドといったきわどい話題になると彼は警戒した。でも、一緒に過ごした数時間はなごやかで親密な感じだったし、とりとめのないことも延々と話せた。これでもうインタビューは終わりだろうと思うと話がもっと続くので、僕は何度もレコーダーのスイッチをオンにし直した。彼は、ニューオリンズに魅了されてしまったことや「弱者が主人公の物語にのめり込んでしまう」こと、そして映画『ハッシュバビー 〜バスタブ島の少女〜』(‘12)が素晴らしくて打ちのめされたことなんかを話した。

ゆっくりだらだらと進むインタビューに悪い点があるとすれば、どうやって終わりにすればいいかわからないってことだ。だから、彼のオフィスに長居して、敷地内を案内してもらい、彼が電話で子どもたちと自分の仕事について話しているのを聞いているうちに僕は帰りの飛行機の時間に遅れそうになっていることに気づいた。

彼は車を呼んで、ゲートの外側まで送ってくれた。カリフォルニアの太陽が強く照りつけるなか、僕ははっとわれに返った。

自分が道の脇にブラッド・ピットと並んで立ち、ウーバーが来るのを待っているという、とんでもなくシュールな現実に気がついたからだ。












SOURCE:「FIVE OR SIX THINGS I DIDN'T KNOW ABOUT BRAD PITT」By T JAPAN (https://www.tjapan.jp/)
BY MARLON JAMES, TRANSLATED BY MIHO NAGANO