火曜日, 7月 05, 2016

Risky Business:男たちに愛され、女たちの命をつないだ風俗サイト



 

 

 

2014年6月、米サンフランシスコのセックスワーカーたちと

出会うためのウェブサイト「myRedBook.com」が削除された。

困ったのは、男たちよりもセックスワーカーのほうだった。

身を守るためにデジタルリテラシーを身につける者、

止むに止まれず危険なビジネスを続ける者…。

RedBookという“生命線”を失った、彼女たちを追った。

 

 

 

その風俗カタログは成功しすぎた

 

サンフランシスコのベイエリアで、2014年の夏以前にセックスを売り買いした人々のほとんどは「myRedBook.com」を利用していた。

一般的には単に「RedBook」と呼ばれていたこのサイトは、Craigslist、Yelp、Usenetのデータをマッシュアップしたもので、セックスワーカーたちと数十万人の顧客たちが相手を探し、交渉し、会う約束をする場所として、10年以上にわたり機能していた。まさに「性風俗の巨大なカタログ」だ。RedBookは、人々の飽くなき欲望に訴えかけて、この古い歴史をもつ商売を、より安全で、洗練されたものに変えた。効率よく目的が果たせて、品揃えも豊富だったRedBookは、成功しすぎたのかもしれない。

1999年、カリフォルニア州マウンテンヴューで、IT起業家エリック・“レッド”・オムーロによって開設されたRedBookは、エスコートガールの男性客たちが地元の情報を交換したり、体験レポートを書き込んだりするつつましい溜まり場としてスタートした。サイトが成長するにつれ、当初はベイエリアに限定されていたカヴァーエリアも、南カリフォルニア、セントラルコースト、フェニックス、ネヴァダ州、北西部太平洋岸へと広がっていった。ここでオムーロは、重要な機能をサイトに追加する。
セックスワーカーたちが広告を出せるようにしたのだ。

RedBookは淫らな会話とエロティックな出会いへの期待に満ちていたものの、サイトそのものはセクシーさからはほど遠かった。

2000年代初頭を思い出させるような垢抜けないデザインで、求人ページや中古バイクの販売サイトのような見てくれだった。仕事中にセックスの相手を探していたとしても、自動的に画像が表示されてしまうセクションを見ていなければ同僚にバレることもなかっただろう。



RedBookは、大きく分けて3つのセクションから構成されていた。第1に、ジャンルごとの「広告セクション」。

ここには週刊タブロイド紙の終面を賑わせていたような広告が並んでいた。超Hな女子大生巨乳・スレンダー・金髪アジア系美女がおもてなし」午前中割引。最高に気持ちよくしてあげる」といった文言の広告を無料で投稿でき、特別料金を払えばより目立つ場所に載せることもできた。


第2に、何十という掲示板形式の「フォーラムセクション」があった。人気があったのは「エスコートガール情報」路上交渉」女王様」といったフォーラムだが、ほかにも野球からボンデージまで、あるいは音楽からマッサージパーラーまで、さまざまな話題について意見交換できるフォーラムがあった。



シリコンヴァレーの大手企業に勤めるデータサイエンティスト、ブルース・ボストンが最初にRedBookを訪れた目的は、どのストリップクラブに最高のダンサーが在籍しているかを調べることだった。だが彼は、それ以来4年にわたり、自身が「知的で刺激的で誠実」と賞賛するRedBookのフォーラムに入り浸ることになった。とても素晴らしかったよ」と彼は語る。自分の思想や信条についてオープンな議論ができたんだ。彼はRedBookで繰り広げられていたさまざまな議論(リバタリアンの政治思想に関するものから、放埒なセックスパーティの話題まで)に参加した。

そして第3に、何よりも男たちに重宝されたのは、月に13ドル払えばアクセスできる「レヴューセクション」だった。VIP客たちはそこで自分の体験したエスコートガール、SMサーヴィス、性感マッサージに関する感想をつぶさに報告し、ほかの男たちとシェアするのである。レヴューでは風俗嬢の肉体的な細かな特徴が語られるだけでなく、受けたサーヴィスについても列挙される。オークランドで評判のいい、全身マッサージをしてくれる30歳未満のラテン系女性を探したければ、検索条件を設定してフィルタリングすればいい。


ところが、2014年6月25日、RedBookのユーザーたちは青天の霹靂に見舞われる。画面に表示されたのはセクシーな広告、フォーラム、レヴューへのリンクではなく、物々しい警告画面だった。

そこには司法省、FBI、内国歳入庁が、RedBookのドメインを凍結したと記されていた。これらの政府機関のメッセージによると、このサイトが「売春に基づく不法行為に由来するマネーロンダリング」に関わっている十分な証拠があったという。

政府当局は当時54歳のオムーロとともに、カリフォルニア州サクラメント近郊のロックリン在住のアンマリー・ラノースを逮捕した。ラノースは、眼鏡をかけた41歳の子もちの女性で、サイトの管理・運営を手伝っていた。彼らの住居は家宅捜査を受け、コンピューターが押収された。7月、オムーロはインターネットを用いた売春の助長および24件のマネーロンダリング、ラノースは売春助長の罪で起訴された。彼らは保釈されたが、インターネットへのアクセス、およびサイトのユーザーとの接触は禁じられた。

RedBookはユーザーが追加機能にアクセスする料金から収入を得ていたが、連邦地方検事の起訴状によると、オムーロは500万ドル以上を不当に得ていたという。当局がなぜ、もっとあからさまに性を売買しているほかの多くのサイトでなく、RedBookに狙いを定めたのかは明らかではない。それについて、連邦地検はコメントを差し控えている。

オムーロとラノースは当初、すべての罪状について無罪を主張していたが、11月になってラノースは態度を変え、しおらしく振る舞うことで重い罰を回避しようとした。その数週間後、オムーロもこれに習い、インターネットを用いて故意に売春を助長した罪を認め、罰金130万ドルの支払いと財産没収に同意した。オムーロの有罪答弁は、ウェブサイト運営者が売春助長で有罪となった国内初のケースとなった。



お相手が必要?」


写真家のヴィクター・コボは、サンフランシスコのテンダーロイン地区
で15年以上にわたってセックスワーカーたちの写真を撮り続けている。
サンフランシスコの埃っぽいテンダーロイン地区は、観光客で賑わうユニオン・スクエアや、小洒落たノブ・ヒル地区に接する場所だ。2012年、ツイッターがマーケット・ストリートにある古いアールデコ調のビルに豪華な本社を置いて以来、Uber、Spotify、Yammer、Squareといった企業がこの地域に移転してきた。

それに伴い近年、何百人という若い技術者たちがテンダーロイン地区に引っ越してきた。これまで何十年もの間ジェントリフィケーション[訳注:都市部の貧困層の多い地域に豊かな人々が流入すること。家賃が高騰して、元の住民が住めなくなるなどの問題がある]になんとか抵抗してきたこの地区の経済は、いま急速に変化しつつある。

この抵抗の一端を、去る秋のある午後、わたしは近隣を散歩している最中に目のあたりにすることになった。

街角には5人の女性が立っていた。ある女性は自動車に向かってバタバタと手を振り、別の女性はもっと注意深く、近くを通り過ぎるクルマのドライヴァーに思わせぶりな視線を送っていた。なかでもとくにアグレッシヴな女性がいて、ストラップの細い黒のタンクトップに股上の深いジーンズを穿き、腰にはサンフランシスコ・ジャイアンツのスウェットシャツを巻いていた。昼間には特に強烈に映る濃い口紅と目のまわりの厚いメイクがなかったら、食料品の買い物に出てきた主婦かと見間違うところだろう。

わたしは彼女から3m離れてバス停の近くに立っていた。ハーレーにまたがった男が赤信号で止まると、彼女はこれみよがしに尻を男のほうに突き出してみせた。

ハーレーが走り去ると、警察のピックアップトラックがわれわれの近くにやってきた。助手席にいた警官が彼女に声をかける。彼女はパトカーに歩み寄り、開いた窓に頭を差し入れた。警官が静かに二言三言告げると、彼女は再び元いた場所へと戻った。警官たちがいなくなると、彼女は先ほどよりもほんの少しだけ控え目に、また通行人たちを誘惑しはじめた。

サンフランシスコ交通局38ギアリー線のバスが到着し、10人ほどの乗客が降り、新たに何人かを乗せて走り去る。わたしがバスに乗らなかったので、彼女はわたしがダウンタウンに行くためにここにいるのではないと気づいた。

彼女はこちらを品定めすると「こんにちは、わたしはキャシー」と声をかけてきた。あなた、何をしているの?」

ちょっと面食らってたじろいでしまったわたしは思わず、人と会ったあとで次に何をしようかなと考えているところだ、と口にした。 

お相手が必要?

いや、結構。わたしは縁石を踏みこえて車道をわたった。そして、ふと振り返ってキャシーに言った。 

ねえ、インターネットで君を見つけられる?」

残念ね」と彼女は言った。 

前はRedBookのレヴューに載ってたんだけど、使えなくなっちゃったでしょ」










失われたコミュニティ

オムーロがRedBookを始めたきっかけは、それがベイエリアの男性客のウェブ上の拠点になると考えたからだった。RedBookは成功を収め、最終的に多くのユーザーを惹きつけ、事業として成熟し、巨大な利益を生み出すようになった。

しかしRedBookが閉鎖されると、最も大きな打撃をこうむったのは買い手ではなく売り手の側、キャシーのようなセックスワーカーたちだった。RedBookによって、この世界で最も古い職業に伴う危険は大幅に軽減されていたのである。
 
RedBookによってセックスワーカーの危険が減ったのは、ひとつには、金をもっていない者や甚だしく暴力的な者など、好ましくない客との出会いを排除できたからだ。

性の提供者たちは、RedBookのフォーラムで名が知れている客や、周りに好意的に思われている客だけを選んで会うことができる。また、新規の客に対して、サイト上のほかのエスコートガールからの紹介を要求することもできる。

米国のセックスワーカーの支援団体「Sex Workers Outreach Project」のクリスティナ・ドルギンは言う。 

RedBookは、彼女たちが客と安全に交渉し、客をふるいにかけることで、乱暴なろくでなしや潜入捜査官と出会う可能性を減らせる場所だったのです」

RedBookはなくなったが、性の売り買いが路上からインターネットへと移行する流れは止まらない。

ソーシャルメディアを用いて自らを宣伝するセックスワーカーもいる(Twitterで、あなたの住んでいる都市名と「#escort」や「#incall」などのタグ、お好みの性的志向などで検索してみるといい。また、自身のウェブサイトをもっている者もいて、その多くが性産業のWordPressとも呼ぶべき「Escort Design」のようなセックスワーカー特化型サーヴィスを利用してサイトをつくっている。

だが、オンラインで客を探すための最も一般的な手段は、RedBookに似たサイトを利用することだ。

ウェブ上での売春や闇市場を研究しているベイラー大学経済学教授のスコット・カニンガムによれば、全国的な調査がなされていないので正確な数字はわからないが、今日では有償のセックスの大多数は、インターネットから始まっているという。 

専門のサイトや、もっとわかりやすくいえばインターネット自体が、路上での取引を減らしているのです」と彼は続ける。これらのウェブサイトによって実際、市場は広がったように思えます」

セックスワーカーたちが単に広告枠を買いたいなら、「Cityvibe」「Lovings」「Backpage」「Eros Guide」といった風俗サイトを使い続ければいい。だが広大な掲示板のネットワークをもっていたRedBookは特別な存在であり、そこではセックスワーカーたちが広告を出す以外に、互いに質問し合ったり、支援を見つけたり、友人をつくったりすることができた。


RedBookの閉鎖に伴い、オークランドのセックスワーカーであるスージーQが失ったのは、まさにそういった活動だった。 

コミュニティを築くための決定的なリソースを奪われてしまった」と彼女は語る。 

社会の隅っこに押しやられた者にとって、あるいはその職業は犯罪だと言われる者にとって、コミュニティを築くということはそれだけでも大変なことなの

女性たちはRedBookのフォーラムで、冗談を交わしたり、同業者の役に立つような健康問題や経済面の知恵を交換し合ったりしていたのだと彼女は言う。

 
 
 

 

エスコートガールたちのIT教室

 

スージーの仕事内容はこのうえなく多彩だ。

エスコートガール、あるいはSM嬢として毎週数人の客を取るほか、SF Weekly』にセックスにまつわるコラムを執筆し、性生活にスパイスがほしいカップルを対象としたクラスでセックスを教え(最新の講義は「ほぼ一夫一婦制、マニア向けサイトでモデルになり、アダルトヴィデオにも出演している。
ポルノ界のアカデミー賞であるAVNアウォードにノミネートされたこともある。

彼女は2つのポッドキャストをプロデュースし、自らそのホストを務めている。 

The Whorecast」はセックス産業における人と政治に注目したもので、最近の回では、ポルノ男優を副業にしたために未来の年金をふいにした海兵隊員へのインタヴューを取り上げていた。

スージーのもうひとつのポッドキャストは、TVドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」を2人のセックスワーカーの視点から語るもので、その名も 「ツユ来たる…顔に」である(訳注:ゲーム・オブ・スローンズ」に登場するスターク家の標語で、第1話のタイトルでもある「冬来たる」のもじり



RedBookが閉鎖してから「新規の客と出会うことが難しくなった」
と、スージーQは言う。
とはいえ、スージーの収入において、エスコートはいまだに最も大きな部分を占めている。RedBookの閉鎖以来、彼女の商売は大きな打撃を受けた。

新規客と知り合うのがとてもやっかいになった」と彼女は語る。
サイトが使えなくなってからは2、3人しか新規客を取れてないの。絶不調よ

RedBookの膨大なトラフィックと、客がデートの相手を探すときにとても便利だったレヴューセクションがなくなったことに、彼女は強い不満を募らせている。いまでも、男性客たちはスージーの個人サイトに載っている情報を見て、彼女に連絡をすることはできる。だが、数年にわたって客たちが彼女について書いた好意的なコメントは、RedBookとともに消えてしまった。

考えてみてよ。あなたがレストランの経営者で、素晴らしいレヴューがYelpに山のようにあったのに、突然Yelpが閉鎖されたら?

スージーは言う。そういった情報がなくなってしまったら、人々があなたのレストランが実際どうなのかを知るのはとても難しくなる」

法執行機関がRedBookを閉鎖したことで、スージーのようなプロのエスコートガールたちは自分たちのサーヴィスに望ましい値段を設定しにくくなった。 

5〜6年前は、性感マッサージの女の子たちが寄り集まって、みんなで20ドル値上げしたらどうなる?』と話し合えたし、それはうまくいっていたの。いまは全然そんなことできない」

現在、多数のセックスワーカーたちの個人情報が政府機関の手中にある。法執行機関は、人々のIPアドレスや本名の入ったメールアドレス、クレジットカード情報も知っていると思われます。デジタル世界の人権擁護活動を行うNPO「電子フロンティア財団」のスタッフ活動家ナディア・カヤリは言う。 

そして、われわれが観察している最近の傾向からすると、当局が得た情報はそのまま保持され、なにかしらのデータベースに登録されているはずです。つまり恐ろしいことに、セックスワーカーたちは常に監視下に置かれており、いつでも逮捕されうるということだ。

RedBookの閉鎖を受け、カヤリはサンフランシスコ市内の非公開の場所でワークショップを主催し、セックスワーカーたちにオンラインでの活動を匿名化する方法を教え始めた。

約20名の女性たちに、IPアドレスを隠す「Tor Browser」の基礎を説明し、パスワードを用いたセキュリティ対策を改善する方法を伝授したのだ。受講者たちからは的確な質問が投げかけられ、カヤリは彼女たちの思慮深さに感銘を受けた。

博士号をもった女の子もいれば、コードの書き方を知っている女の子もいるのです」

一方、警察に目をつけられやすいのは、テクノロジーの経験がほとんどない女性たちである。彼女たちは路上で客を探しているし、仕事には電話を使います」とカヤリは言う。
彼女の研修では、パスコードの活用やテキストメッセージの暗号化といった基本的なセキュリティー対策の重要性についても教えている。 
これらは比較的簡単な対策ですが、路上では一定の効果を生むのです」とカヤリは続ける。こうしたスキルがこれまで以上に重要になっています。RedBookの閉鎖によって、いまではより多くの女性たちが路上に出ているのですから」

少なくとも短期的にはそうだろう。だがベイラー大学経済学教授のカニンガムは、自身が2011年に共同執筆した論文で、インターネットによって25〜40歳の路上で働くセックスワーカーの数が減少したと述べている。








いつか第2のRedBookが登場してくれたら

 

レイチェルと名乗る45歳のセックスワーカーは、RedBookの無料広告を頼りにしていた。

この20年のほとんどの期間、彼女は路上やテンダーロイン地区の長期滞在型ホテルで客をとっていたという。

彼女は長年のクラック依存症で、たびたびホームレスとなったこともあったが、いまでは清潔感に溢れ、襟元のゆるいセーターにレギンス、真新しいカウボーイブーツをおしゃれに着こなしている。道で彼女の側を通りすぎたとしても、その生業がなんであるか思いもよらないだろう。

ポスト通りとハイド通りの角で少しの間言葉を交わし、時間を割いてもらう代金として60ドルで折り合いがつくと、レイチェルはわたしの手をとって歩き出した。消防署、医療用マリファナ販売所、ドラァグクイーンのいるバーの前を通りすぎる。

彼女はわたしの手を離すと、通りの向こうにいる3人の男と話をしに行った。1分後、男のひとりから受け取った小さな包みをポケットに突っ込むと、彼とハグしてからわたしのところに戻ってきた。再びわたしの手を取って、アメリカ・ホテル」の正面階段のほうにいざなっていく。

アメリカ・ホテルは、テンダーロインに数十ある貧困層が住まう単身居住者向け宿泊所のひとつだ。門を抜けて、汚いカーペットが敷いてある階段を登ると、分厚いプラスチックの壁が現れた。壁の下のほうには頭が通るほどの大きさの穴が空いていて、その向こうにひとりの男が座っている。彼はレイチェルに向かってうなずき、じろじろとわたしを見た。


おじさん、この人はわたしの友達よ」とレイチェルが言う。

男は50代前半で、胸に大きくYouTubeのロゴが刺繍された黒いパーカーを着ている。彼はわたしに10ドルを要求し、ここにいる間は写真付きのIDを彼に預けなければならないと告げた。

レイチェルとわたしはさらに階段を2階分上り、彼女の部屋に辿りついた。部屋には散らかっているというほどには物はなかったが、清潔な感じもしなかった。

むきだしのツインサイズのマットレス、シンク、TVそしてドラマ「ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則」が流れる古いテレビが載ったタンス。窓の側の角には2つのダッフルバッグが置いてあり、レイチェルの服や日用品がはみ出している。

彼女は90年代前半に東海岸からベイエリアに引っ越してきて、すぐにいまは閉館になった「マーケット・ストリート・シネマ」でストリップの仕事を得たという。

昔はほかのところでも踊っていたわ。でも、マーケット・ストリートでの仕事は“ストリップ+α”だったから。そう言って彼女は笑った。

レイチェルは、バカでかい豹柄のハンドバッグからレノボのノートパソコンを引っ張り出すと、Lovingsに出している彼女の広告を見せてくれた。

Lovingsはサンフランシスコのエスコートガールや性感マッサージ、その他さまざまな性的サーヴィスを紹介しているサイトだ。レイチェルはLovingsを使い始めたばかりだ。広告掲載料は1カ月に120ドルだが、その分は彼女の得意客のひとりがクレジットカードで支払ってくれているらしい。

RedBookの男たちからはひっきりなしに電話がかかってきたが、Lovingsに出している広告の効果はいまいちだった、と彼女は言う。

わたしもそのサイトを見てみたが、レイチェルの広告がぱっとしなかった理由は明らかだ。そこに広告を出している女性の多くは、レイチェルよりもずいぶん若く見えるのだ。さらに、彼女たちの写真はプロが撮影したもの、少なくともちゃんとした一眼レフカメラか画像修正の技術をもった友人に撮ってもらっているものだった。

それと比べるとレイチェルの写真は、むさくるしいホテルの部屋で、携帯電話のカメラで撮ったもののように薄汚く見える。

RedBookの閉鎖に話題が及ぶと、彼女は「一から出直すしかないわね」と語った。

何年もの間、彼女の客の大半はRedBookの男たちだった。彼らは彼女の電話番号を、フォーラムのほかの利用者から手に入れていた。彼らはわたしのことをよく知っていて、高く評価してくれていたわ」と彼女は言う。クズのような男に行き当たることもこれまでにはあったが、RedBook経由の男性客との仕事では、だいたいいつもいい思いをしたという。彼らはいい人たちで、シャイな部類に入るわね。彼女は言う。正直、ちょっとオタクっぽかったけど」

最近では、レイチェルは街角で出会う男たちを相手にすることが増えている。快楽を求めて、この近所をぶらついたり、クルマで流したりしている男たちだ。

彼女は通りに出るのが好きではない。それは疲れるし、怖くもあるからだが、とりわけカーセックスは大嫌いだ。カーセックスは危険なのだ。

だが、RedBookが閉鎖されて以来、彼女はより頻繁に路上に立ったり、多くのカーセックスをこなしたりしなくてはならなくなっている。

RedBook時代から付き合いがあって連絡をくれる友達も何人かはいる。でも、多くはないわ。彼女は言う。いつか第2のRedBookが登場してくれたらと思う。そうすれば、人生はもっと楽になるのにね」










 




 
 
 





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