火曜日, 2月 23, 2016

「裸の特異点」を算出

5次元ブラックホール解析で「裸の特異点」を算出

アインシュタインの一般相対性理論が破綻?

 






英ケンブリッジ大学およびクイーン・メアリー大学のがスーパーコンピューターを使い5次元環状ブラックホールのシミュレーションを実施、このブラックホールが「裸の特異点」を生み出し、アインシュタインの一般相対性理論を破綻させる可能性があることを確認しました。


裸の特異点はだかのとくいてん、naked singularity)は、一般相対性理論における用語で、事象の地平面 (event horizon) に囲まれていない、時空の特異点である。





一般相対性理論は、現在の宇宙の性質を知るための基本となる理論です。一般に我々の存在する「時空」は高さ、幅、奥行きからなる「空間」に「時間」を加えた4次元だと考えられます。


また一般的なブラックホールといえば、光でさえも逃げられなくほど強力な重力をもつ天体。非常に小さいとされる核の部分を取り囲むようにして存在する「事象の地平面」は宇宙空間にポッカリと真っ黒な穴が空いたかのように見えると想像されます。なお事象の地平面は、重力によって光の速度でも逃げ出せなくなる境界面であり、そこに地面があるわけではありません。


ブラックホールの中心は物質の密度や重力やが無限大となる「重力の特異点」があると考えられます。密度や重力が無限大となると一般相対性理論は成り立たちません。ただ一般相対性理論では特異点の存在はさけられないと考えられています。現実には、特異点は必ず事象の地平面の内側にしか存在できないと考えられ、さらにそれを観測するための光や電磁波は事象の地平面から出て来られず、現時点では特異点は計算や推測でしか知ることができません。


今回、研究者は2002年に発見された ブラックリング と呼ばれる5次元のブラックホールがどのような特性を示すかを、COSMOS スーパーコンピューターを使ってシミュレーションしました。その結果を表したのが下の図。 
ただこれを見せられても何のことかわかりませんが、このシミュレーションでは環状の特異点は時間の経過とともに不安定に波打ち始め、次第に波がコブへと発展していきます。研究者によるとしまいにはいくつかのコブとそれを結ぶ細いヒモ状の部分に別れ、一連の細切れの微小な特異点がむき出しとなって存在してしまうことがわかったたとのこと。

この結果について、研究者は「宇宙が現在認識できる4次元よりも高い次元だとすると、「裸の特異点」が存在することになり、一般相対性理論はもはや成り立たなくなります。そうするともはや一般相対性理論は宇宙を説明できる理論では無くなるかもしれません」と語りました。また、「『特異点は必ず事象の地平面内に隠される』とする「宇宙検閲官仮説」が高次元宇宙においてのみ破られるとするなら、4次元宇宙はとても特別だと考えなければならない」としています。


論文は End Point of Black Ring Instabilities and the Weak Cosmic Censorship Conjecture : Pau Figueras, Markus Kunesch, and Saran Tunyasuvunakool


ちなみに一般相対性理論と量子力学を統一するという『量子重力理論』が完成すれば、裸の特異点の問題は解消されるという意見もあります。ただこの理論はまだまだ完成には程遠い段階とされます。


蛇足ですが、裸の特異点があり得るどうかについてはかのスティーブン・ホーキング博士と映画『インターステラー』や『コンタクト』に深く関わったキップ・ソーン博士の間で意見の別れるところです。ホーキング博士が存在しない派、ソーン博士が存在する派にわかれて賭けをしたところ、のちに「裸の特異点が存在する可能性」があることが判明し、ホーキング博士はソーン博士に(裸を隠すための)Tシャツを贈呈しています。


さらに蛇足を続けると、ホーキング博士はこの手の賭け事が好きなことで知られます。たとえばシュヴァルツシルトがブラックホールの概念を導き出した頃には、「はくちょう座 X-1 はブラックホールか否か」という賭けをしています。結果、X-1 はブラックホールと認められるようになり、ホーキング博士は相手に雑誌『ペントハウス』を1年間贈り続ける羽目になったとか。実は、この賭けの相手もキップ・ソーン博士でした。

 

 

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