土曜日, 2月 13, 2016

Aston Martin DB9 GT|Aston Martin 試乗


 アストンマーティンDB9 GT(FR/6AT)

 

芸術品レベルの「アストンマーティンDB9 GT」に試乗

 

12気筒礼賛

英国のゲイドンで“手作り”されるアストンマーティンの高級スポーツカー「DB9」が、より高出力のエンジンを搭載した「DB9 GT」に進化。V型12気筒ならではのパワーフィールと、ボディーコントロール能力の高さが織り成す走りの魅力に触れた。



その威光にかげりなし

ハイブリッドにFCV、ピュアEVにクリーンディーゼル……最近話題のパワーユニットといえば、それは“エコ系”のアイテムばかりだ。

排気量を落とした上で過給機を加えた、いわゆる“ダウンサイズ”を図ったエンジンも存在感を強めている。CO2排出量の削減=燃費の向上をより徹底させようと、さらに“レスシリンダー”すなわち気筒数の縮小という手段にまで挑むのも、今や「当たり前」の方策だ。

そんなダウンサイズ化の影響は、10気筒、あるいは8気筒のエンジンで特に顕著に表れている。実際、ほんの数年前までは「8気筒と12気筒の“いい とこ採り”」ともてはやされた10気筒ユニットは、すでにその大半が姿を消し、自然吸気の8気筒エンジンも、ターボ付きのより小さな6気筒ユニットへと “ダウンサイズ+レスシリンダー”の憂き目に遭っている。

一方、意外にも「この先もしばらく安泰」と目されるのが、これまで乗用車用のハイエンドユニットとして君臨してきた12気筒のエンジンだ。ブランド そのものが8気筒ユニットと共に育ってきた歴史を持つゆえに、おいそれと主力エンジンのレスシリンダー化が図れないAMGですら、「12気筒は12気筒で 固有の生き残り先がある」と、当分はそれを“温存”する可能性を示唆している。

アメリカ市場をはじめとして、いまだ少なからず残る“気筒数崇拝”が強い顧客のために12気筒エンジンの生産は当分やめないというのが、多くのプレ ミアムブランドに共通する考えかただ。10気筒ユニットが姿を消し、8気筒から6気筒への転換も進んでいけば、12気筒エンジンゆえの希少性やプレミアム 感は、この先むしろ増しこそすれ、衰えることはなさそうでもある。


12気筒エンジンを搭載した「DB9」の高性能モデルにあたる「DB9 GT」。2015年の「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」でお披露目された。


インテリアは豊富に用意された色やパネル、表皮素材を使い、ダッシュボードやルーフライニング、ドアトリム、シートなどをコーディネートすることができる。


メーターは燃料計、速度計、エンジン回転計、水温計の4眼式。ほかのアストンマーティン車と同じく、速度計は時計回り、エンジン回転計は反時計回りと、逆方向に針が回る。


ダックテール形状のリアスポイラーに施された「DB9 GT」のバッジ。

 

 

CEO自ら12気筒の存続を名言

直近の年間販売台数、わずかにおよそ4000台。
100年を超える歴史を持ちながら、その間の累計生産台数は7万台ほどにすぎないという、際立ったエクスクルーシブ性が特徴のアストンマーティンも、そんな12気筒エンジンを珍重する数少ないブランドのひとつだ。

かように少数の高級かつ高価なスポーツモデルのみを、2003年に英国ゲイドンに新設した工場でほとんど“手づくり”するこのブランドの作品にも、この先当分12気筒エンジンが搭載されていくことが確実となっている。

近い将来登場する新モデルについては、AMGから供給を受ける8気筒ユニットの搭載が公にされている。が、それと同時に自社製の12気筒エンジンを 搭載したモデルを継続生産していくことを、2014年に日産副社長からの電撃移籍で話題となったアンディ・パーマーCEOが(ハイブリッド・システムとの 組み合わせを示唆しつつ!)自身の口で明言しているのだ。

ここに紹介するDB9 GTも、典型的かつ伝統的なFRスポーツカーのプロポーションを印象づけるスラリと長いフードの下に、12気筒エンジンを搭載する。5935ccのV型12気筒自然吸気ユニットが発する最高出力は、547psという強靭さだ。

フロントにミドマウントされるエンジンから取り出された回転は、減速されずにリアへと伝達。オケージョナルシートの下にマウントされた、バイワイヤ式でシ フトポジションが制御される6段AT“タッチトロニック”との組み合わせにより、運動性能については4.5秒の0-100km/h加速タイムと295km /hという最高速が発表されている。



現在、アストンマーティンは「V8ヴァンテージ」を除く全てのカタログモデルに、自然吸気の6リッターV12エンジンを搭載している。


サイドシルに装着された金属プレート。車名の下には「Hand Built in England」の文字が記されている。


エクステリアではブラックのスプリッターやディフューザー、ブラックアルマイト仕上げのブレーキキャリパー、フューエルキャップに施された「GT」のロゴなどが、「DB9」との違いとなっている。


フロントフェンダーパネルに装着された「V12」のバッジ。

 

走りだす前から、オーラが違う

全高が1.3mにも満たないスポーツカープロポーションの持ち主ゆえ、間口に対して天地が小さく、それゆえに大きいというよりは長い印象が強いドアをスティック状のアウターハンドルを引いて開き、ごく低いポジションにマウントされたシートへと滑り込む。

前方へと足を強く投げ出した格好となる、典型的なスポーツカーらしいドライビングポジションを採ると、センターパネルへとつながるコンソール部分が相対的に高い位置にあることも手伝い、囲まれ感がかなり強い。が、一方で視界は決して悪くない。例え前席の2人がそれぞれ手荷物を持ち込んでも、その置き場に難儀せずに済むのは、「これでは子供ですら足のやり場に困るはず」とそんな代物ではありつつもリアシートが確保されており、そこを“もの置き場”として利用することができるからだ。

センターパネル最上部のスロットにキーを手前から水平に差し込む、という流儀でエンジンをスタート。完爆時の“ひと吠え”と共に、12本のシリンダーはきめ細かく心地良い鼓動を打ち始める。

ちなみに、そんなエンジン始動時のプロセスでも、4気筒あるいは6気筒エンジンのそれよりも回転数の変動が明確に小さいゆえ、コンプレッション間隔の小ささが連想できる。すなわち、スターターモーターを作動させた段階での印象も「多気筒エンジンならでは」ということ。「ダウンサイズって何のコト?」な6リッター12気筒の持ち主は、すでに走りだす前の段階から、かくも独特のオーラを発しているのである。


シートの座面と背もたれの中央には、「グレン・コー」と呼ばれるタテ溝を採用。フロントシートのヘッドレストには「GT」の刺しゅうが施されている。


リアシートはセンターコンソールで左右に仕切られた2人乗り。


ステアリングホイールには、写真の円形のものに加え、オプションで「One-77」から発想を得たという異形デザインのものも用意されている。


「DB9 GT」に搭載される自然吸気の6リッターV12エンジン。「DB9」を30ps上回る、547psの最高出力を発生する。

 

スポーツカーとして、GTとしての質を高めるために

前述のイグニッションスロットと並んでセンターパネルの特等席にレイアウトされたシフトボタンで、Dレンジをセレクト。シートとサイドシルの隙間にレイアウトされたレバーをいったん引き上げた後に床まで降ろし、パーキングブレーキを解除して発進する。

大排気量エンジンゆえに絶対的なトルクが大きいので、動力性能は無論文句ナシ。すこぶる強力でありつつ“炸裂感”が控えめなのが、この心臓ならではの特徴的なパワーフィールだ。

ただし、アクセルワークに対する応答性にあと一歩のシャープさが欲しいことと、「スポーツカーはやっぱり“音”だ!」と思わず快哉を叫びたくなる珠玉のサウンドの変化をより楽しみたいという思いもあり、ややルーズなトルクの伝達感を持つ現状の6段ATについては、よりシャープでタイトなつながり感が味わえる、8段程度のATへとアップデートしてほしいという印象を抱いた。

エンジンをフロントミドにマウントする成果は、6リッターで12気筒という記号がもたらす“重厚長大”さを意識させない、コーナリング時の思いがけず軽やかなノーズの動きに象徴される。

フロントに35%、リアには30%偏平の20インチシューズを履くにも関わらず、まさに見た目通りの“流れるような走り”を演じてくれるボディーコント ロール能力の高さは絶品。一方で、わずかなわだちにも反応してしまう対ワンダリング性の低さは、リラックスした走りに水を差してしまうし、何より世界一級のゴージャスなグランツーリスモとしての、このモデルのキャラクターにそぐわないのが残念だ。


「DB9 GT」は、0-100km/h加速が4.5秒、最高速が295km/hという動力性能がアナウンスされている。


トランスミッションは「タッチトロニック2」と呼ばれるトルコン式6段AT。ポジションを選択するセンターコンソールの「P」「R」「N」「D」のボタンと、シフトパドルで操作する。


タイヤサイズは前が245/35ZR20、後ろが295/30ZR20。テスト車には切削加工が施されたツートンカラーの10スポークアルミホイールが装備されていた。


サスペンション形式は前後ともにダブルウイッシュボーン。「ノーマル」「スポーツ」「トラック(サーキット)」の3種類のモードを備えた「3ステージ・アダプティブ・ダンピング・システム(ADS)」を装備している。


「DB9 GT」の前後重量配分は、前軸荷重が920kg、後軸荷重が870kgと、ややフロントよりとなっている(車検証記載値)。

「DB9 GT」には現行型「ヴァンキッシュ」とともに導入が開始された「AMi II」と呼ばれるインフォテインメントシステムが装備されている。


 

スクリーンでの活躍するのもうなずける

そぐわないといえば、ナビゲーションシステムの機能や地図グラフィックも、アストンマーティンというブランドを考えれば物足りない。実は、このモデルに標準装備されるのは“簡易ナビ”で知られるガーミンの作。もっともここは、社外品の接続を請け負うサードパーティーの業者も存在するようではあるが。

もはや“芸術品レベル”と思えるスタイリッシュなエクステリアと、熟練工が丹精込めて仕上げる姿がまぶたに浮かぶ、入念な作り込みによるインテリアの融合――それこそが、アストンマーティン車の神髄と言えるだろう。ましてやそれが、どこまでも走って行きたくなる乗り味を実現させた当代一流の性能を備えるスーパースポーツカーだとすれば、そんな家系の歴代の作品が、銀幕のヒーローとしてスポットライトを浴びるのもまさに当然なのかもしれない。











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