火曜日, 12月 22, 2015

『全光都市間量子暗号通信』|NTT

絶対に盗聴されない、通信距離2倍、

『全光都市間量子暗号通信』



NTTは、盗聴不可能な量子暗号の通信距離を2倍に延ばす伝送方式『全光都市間量子暗号』を提唱しました。従来方式では半径400kmが限界だった通信距離圏を、800kmまで伸ばすことが可能になります。

量子暗号とは、素粒子の一つとして知られる光子(photon)の量子状態を利用した暗号技術。通信の送受信者間で共有する共通の秘密鍵に、光子の『重ね合わせ状態』を用いています。盗聴を行うと、いわゆる観測者効果により量子状態が変質して通信内容を読み出せないうえ、盗聴が試みられたことを確実に検知できる特性があることから高いセキュリティ性があり、国民投票、首脳会談、金融取引、遺伝・生体情報のやりとりなど高い秘匿性が求められる通信への活用が期待されています。

実際のデータ伝送には既存の光ファイバー伝送網が利用できますが、量子通信の信号は伝送中の光損失やノイズによって徐々に破壊され、長距離伝送に伴い秘密鍵の生成率が下がるため、暗号通信が可能な距離を伸ばすためのなんらかのブレイクスルーが求められてきました。

今回NTTが提唱する全光都市間量子暗号では、量子の重ね合わせ状態を保持する『物質量子メモリ』などの高難度技術を用いることなく、また通信速度を落とすことなく量子暗号の通信距離を2倍にすることが可能とされています。

光子を直接伝送する方式において、秘密鍵の生成率は伝送距離が長くなるにつれて下がります。これには光ファイバーの透過率が影響しており、今後劇的な改善が見込めないため、自ずと秘密鍵が生成可能な限界距離は限られます。

全光都市間量子暗号方式ではこうした状況を踏まえ、伝送にかかわる手法を工夫することで、通信可能距離の延長を図っています。具体的には、送受信者間の中間に配置できるノード(ネットワーク上の節点)を利用する手法を採用し、これに対してさらに改良を加えています。


非常に乱暴に言ってしまうと、従来の手法では、秘密鍵の生成に必要なパラメータを光子に与えるタイミングが中間ノードへの伝送前(量子もつれ配送方式)か、伝送後(時間反転型方式)かの違いしかなく、このとき、通信可能距離(秘密鍵生成率)は中間ノードを使用した場合としない場合を比較しても同程度にとどまっていました。

全光都市間量子暗号方式では、後者の方式(時間反転型方式)の性質を利用して、光子にパラメータを与えるタイミングを中間ノードの地点とすることで、送信者から中間ノード(あるいは中間ノードから受信者)までの通信可能距離を従来の手法と同等にすることができ、この結果、通信可能距離が従来から最大で2倍にできるというわけです。

これは中間ノードにおける処理なので、伝送路には従来と同じものが使用でき、速度も落ちないというメリットもあります。


完全にセキュアな量子暗号通信が利用可能な距離を伸ばす方法としては、このほか多数の高難度技術を要求する『量子中継』が知られており、将来的に1000km以上の大陸間通信を行ううえで必須の技術とされています。ただし現時点では原理を検証する実験が繰り返されている状況であり、実用化はまだまだ先の話です。

一方、量子暗号は量子通信分野の中でも最も研究の進んでいる技術であり、100km程度の距離であれば、既に海外で製品化されています。また日本においても試験運用が始まっており、実装上の問題などが解決を見れば、近いうちに実用化される可能性もあります。

大きな整数の素因数分解が困難であることを利用したRSA方式の暗号など、現時点で広く用いられている暗号のほとんどは、量子コンピュータによる超高速計算という力技によって解読が可能とされています。量子暗号の場合は物理法則によって安全性を担保するという点に無敵感があり、そこはかとないロマンを感じさせます。

また量子通信の分野では『量子テレポーテーション』や『単一光子源』などSFめいた単語が飛び交っており、難解ながら未来を感じさせる面白さがあるので、興味のある方は是非調べてみてください。