木曜日, 12月 24, 2015

一目惚れの仕組み「恋する脳」の研究

 

愛情と性欲はまったく別物–恋愛科学の第一人者が語る“恋する脳”の仕組みとは?

人類学者のHelen Fisher(ヘレン・フィッシャー)氏によると「恋愛=性欲」は間違いであると語ります。その理由とは。恋愛は人間にとって根源的な欲求であり、パワフルな感覚のひとつです。なぜ人は恋に落ち、恋に苦しむのでしょうか。脳科学者が長年の研究により解き明かした「恋する脳」ついての考察を語ります。 


「恋する脳」の研究

ヘレン・フィッシャー氏:私は同僚のアートアロン、ルーシーブラウンと共に熱愛中の37人をMRIスキャナーで検査するという実験を行いました。

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そのうち、17人は熱愛中、15人は恋が終わった人です。 また、3度目の実験を始めたばかりですが、結婚生活を10年から25年経て今も熱愛中である人の研究も行っています。

今日はその研究の話をします。 グアテマラのティカルというジャングルの中に寺院があります。その寺院は、北南米で最も偉大な文明であり、壮大な国家都市であり、「太陽の王」と呼ばれているハサウ・チャン・カウィールによって建設されました。

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彼は180センチ以上の長身で、80歳代まで生き、紀元720年にこの遺跡に葬られました。マヤの伝書によると、王は妻を強く愛し、自分の神殿の前に妻の神殿を建設しました。
毎年、ちょうど春分と秋分の日に、王の神殿側に日が昇ると、王の影が妻の神殿を優しく包み、妻の神殿側に日が沈むと、妻の影が王の神殿を優しく包む設計です。

つまり、1300年も立った今でも2人は石碑を隔てて、抱擁し、くちづけを交わしています。

恋は実らないもの?

世界中で、人々は恋をし、恋に歌い、恋に踊ります。愛の詩や物語を書き、恋の神話や伝説を語ります。恋に焦がれ 恋の為に生き、人を殺し、死ぬことさえも厭いません。

ウォルト・ホイットマンの言葉 「君のためなら全てを賭けてもいい」に代表されるように、人類学者は、全世界170ヶ国にてロマンティックな恋が存在したことを発見しました。つまり、恋が存在しない社会はないと言えるのです。

ただし、恋は常に幸せをもたらすものではありません。ある大学生が、研究で恋に関する質問を数多くしました。

その中で印象に残った2つが、

「愛する人に振られた事がありますか?」

もう1つが、

「自分を愛する人を振った事がありますか?」

という質問です。

その質問に対し、約95%の男女が両方に「はい」と答えています。

つまり、恋はほぼ実らないものだということです。
 

恋愛は最もパワフルな感覚のひとつ

脳について話す前に、詩を朗読します。地球上で最もパワフルな愛の詩です。
優れた詩は沢山ありますが、これに勝る詩はないと思います。

1896年、南アラスカのクワキウトル族(インディアンの一民族)が使節団に聞かせた詩です。このような公の場で初めて読みます。

「炎のような愛の痛み、愛の炎が痛みとなって体中を駆け巡る。あなたへの愛で、心は張り裂け、あなたへの愛でやけどする。あなたの言葉を覚えてる。あなたの愛を思う。あなたの愛が心を裂く。私の愛を連れてあなたはどこへいく。さらなる痛み、あなたが旅立つと聞いた。私を置いていくと。その悲しみで感覚を失う。私の言葉を忘れないで。さよなら愛しい人。さようなら」

エミリー・ディキンソンの言葉である「別れさえ経験すれば地獄が分かる」が現しているように、人類が進化してきた中でどれだけの人が苦しんだことでしょう? どれだけの人々がこの地球で、この瞬間、歓喜に満ちあふれているでしょう?  

恋愛は、最もパワフルな感覚のひとつです。そこで数年前、研究を始めました。

 

「恋愛は望みが低いほど燃える」が科学で証明された

その研究は、脳と恋の狂気についてです。
幸せな恋愛の研究は明らかにされているので、詳細は省いてお話します。

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研究によって、脳底付近にある腹側被蓋野と呼ばれる場所でA10細胞群が活発になっていることを発見しました。

自然興奮剤であるドーパミンを作る細胞で、そのドーパミンを脳に放出します。

腹側被蓋野は脳の報酬系の一部で、認知思考処理をする場所のずっと深部、感情処理の場所よりも下部にあります。

爬虫類脳と呼ばれる一部で欲望、やる気、集中力、などに関係する領域です。
コカインでハイになると、同じ領域が活発になります。

恋愛は、コカインのハイの状態を上回った状況です。
コカインだとハイの状態は一時的ですが、 恋愛は執着という心が人を支配します。 自分を失い、相手の事を考えずにいられないように、頭の中に誰かが居座っているような感じです。

8世紀、日本の詩人が「私の思いは、死ぬまで無くならない」と言いました。
恋は狂気であり、振られると執着心は悪化します。

現在、神経科学者のルーシー ブラウンと一緒に、振られて間もない人を研究しています。

この人達をCTスキャンにかけるのは大変でした。みなさん悲惨な状況ですから。
彼らを見てみると、脳の3領域に活動が見られ、それらは激しい恋愛をするときに活発になる脳の領域でした。
失恋したときは相手のことを忘れて暮らしていきたいにも関わらず、皮肉なもので、よりいっそう愛してしまうということです。

ローマの詩人テレンスが言った「望みが低いほど燃える」その理由が、2000年経った今、解明されました。

欲望、やる気、集中力などの脳の報酬系は、手に入らないとさらに活発になるのです。
この場合、人生最大の報酬とは、最適な交配を行うパートナーのことです。

 

「恋愛=性欲」は間違い

他の領域でも活動を発見しました。

損得勘定に関連する脳領域です。脳スキャナーの中で絵を眺めながら、ルーシーと笑い話をすることがあります。

デヴィッド・マメットの演劇の中で、2人のエセ芸術家がおり、女性が、1人をたぶらかします。男は女性に「お前は悪い子馬だ、お前には賭けないね」といいます。
損得勘定をするとき、脳の坐核側と呼ばれる部分が活発化します。 大きな利益を賭けて危険を冒すときも、同じ脳領域が活動します。他人への深い愛着と関連する脳の領域にも、同じ活動を確認しました。 世界中で人が苦しむのも不思議なことではありません。情熱からくる犯罪も多いのです。

失恋すると恋愛感情に苛まれるだけでなく、深い愛着心を感じます。

脳回路は報酬のために活動し、強いエナジー、集中力、動機、リスクを冒す気力も出てきます。それはなぜかと言うと、人生最大の報酬を得るためです。

この実験から学んだこと、すなわち世界に伝えたいことは、恋愛は自分を動かす動力であり、交配へのエネルギーであるが、性欲ではないということです。

性交相手を探す範囲は広いが、恋愛だとそのターゲットは1回に1人であり、交配へのエネルギーを他の人に浪費せず、1人の相手と交配行為を行うということです。

 

一目惚れの仕組み

2000年前のプラトンの言葉が、今まで見た愛の詩で最もうまくそのことを表現していると思います。

「愛の神とは必然性があり存在するものだ。つまり、必然性のなかにある衝動のようなもので、身体が正常に機能するためのアンバランスであるといえる。まるで、空腹と喉の乾きのように、無くすことは不可能に近い」

また、恋愛は中毒性を伴うと思います。

順調なときは良好な中毒となり、悪化すると、悪夢のような、あらゆる症状が現れます。 恋する1人に神経を集中し、執拗にその人を思います。

切望し現実を歪め獲得には危険を負うという中毒の主症状が3つ見られます。 
忍耐- もっと会いたい 会わずにはいられない 離脱 そして 再発 、その繰り返しです。

失恋から立ち直ろうとしている女友達がいます。その期間は8ヶ月になります。 先日、彼女は車を運転中、ある歌をラジオで聴き、突然彼のことを思い出しました。彼への思いが戻ってきただけでなく、車を路肩に止め、泣かずにはいられませんでした。

ですから、医学界や法曹界や大学の教育界においても、恋愛が極めて中毒的な物質だと理解してほしいのです。

また、動物にも愛情はあります。地球上の動物で、見境なく交配を行う種はいません。
実験室に隔離されるなら話は別ですが、相手に魅力を感じなければ交尾はしません。 仮に窮屈な檻の中で、一生過ごせばそれほど性交相手を選り好みはしないでしょう。百種以上の生物を観察しましたが、どの動物にも好みがあります。

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動物行動学者は、動物の恋愛には 8項目以上の項目があり、その項目の中には、求愛相手や交尾相手の選択などがあることを知っています。 これらは引力と呼ぶ事ができるでしょう。数秒でなくなりますが、確実に恋の引力です。
恐らく報酬系脳領域もしくは、報酬系物質に関わるのでしょう。
動物の引力は瞬間的ですが、象が一瞬で別の象に求愛する例もあります。これがまさに 「一目惚れ」の原型だと思います。


恋愛の研究をしていて、私生活でよくないことがあったかとよく聞かれますが、ほぼありません。
チョコレートケーキの材料は全部分かります。それでも座って食べると、ケーキはやっぱり美味しいです。 それにもちろん私も、他の人と同じように失敗をします。 ただ、人に対する理解と思いやりが深まりました。 
脳システムの奮闘を考えると、ベビーカーの中の幼児を眺め、時々同情を感じます。夕食のチキンが、悲しく見えたりします。

 

人はなぜ恋に落ちるのか

同僚のアート・アーロンのアイデアで始まった、新しい実験も進行中です

長い付き合いで 今も恋心があると言う人を MRIスキャナで検査する実験です
すでに 5名検査しましたが結果は同じ、彼らの恋心は偽りではありませんでした。
激しい恋愛と関連する脳の領域に25年経った今も活動がありました。




恋愛に関しては、まだまだ 明かされていない答えや問いはあります。
 

進行中の研究は 簡単に述べるに留めますが、なぜ 多数の人の中から "その人"に恋するか という研究です

考えたことがなかったのですが 3年前、ある出会いサイトが、私にこの質問をしてきました。私は分からないと答えました
恋に落ちたときの脳の活動は分かりますがなぜ "その人" なのか?、理由は分かりません

そしてこの3年間その質問について研究してきました。 1人に恋する理由は無数にあります。心理学者も同様の意見でしょうが、その傾向として、同じ社会的背景や、経済的背景、同じ程度の知性、同じ程度の容姿や宗教的価値観などの一致が挙げられます。 幼年時代の経験も何らかの形で影響します。ただしその程度、相性が合う性格パターンなど、確定には辿り着いていません。

そこで私は恐らく、生物学的にある種の人に惹かれるのではないかということを思いました。そこでアンケートを作り、脳内の物質の発生度を調べました。

その物質とは、ドーパミン、セロトニン、エストロゲン、テストステロンの4つです。この4つの物質の割合と関連があるであろう4パターンのおおまかな性格を組み合わせました。

私の作った出会いサイト、Chemistry.comでまずアンケートを取りました。この4つ物質の発生度合いや、恋愛相手の選択傾向を観察しました。

米国で370万人がアンケートに回答し、33カ国で計60万人に回答をもらいました。現在、データ集計中ではありますが、恋には常に魔法があるというのは横においておいたとしても、その確信に近づいてきています。
 

私たちの課題は、パートナーを理解すること

例えば、全員が同じ社会背景を持ち、同じ知性レベル、外見の人がいる部屋にいくとします。しかしながら、その全員に恋におちるわけではありません。
そこには生物学的な理由があると思います。なぜ特定の人に魅了されるのかという問題が、あと数年であらゆる脳の仕組みがわかることによって、解決されると思います。

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そろそろ結論に入ります。 この写真は年配の協力者の写真です。

フォークナーの言葉に「過去は死んでない、過去ですらない」というものがあります。
事実、人間は脳内に長年の荷物を背負って生きています。
私を突き動かす、人間の本質を理解したいという理由は、この写真に現れています。

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2人の女性 女性の親密さは男性とは異なり、対面での会話、向かい合わせでより親近感を感じます。目を離さず注視して話します、それが女性にとっての親近感です。
何百万年も前から、顔の近くで幼児をあやし、なだめ、叱り、言葉を使って教えてきたことに起因するでしょう。


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男性は 横並びで親近感を感じます (笑)  
1人がそっちを向くと もう1人は別方向を見る (笑) 
何百万年も前から、木の茂みで立ったり座ったり、まっすぐ前を向き石を片手に、水牛を追ってきたからでしょう (笑)  
古代から 男性は敵と直面し 友人とは横並びで座ってきました。


最後に、愛は人の中に息づいてます。脳内に深く組み込まれてます。私たちの課題は、お互いを理解することです。

ありがとうございました。



人類学者 Helen Fisher(ヘレン・フィッシャー) 氏 (TED2008より)


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