火曜日, 5月 12, 2015

「ポジティブ心理学」組織と個人


組織と個人は「ポジティブ心理学」でどう変わるのか?


 働く人は誰もが思っている。充実して働きたい、自分の力を最大に発揮したいと。一方、経営陣も思っている。社員が主体的に働いて力を発揮してほしいと。しかし、働く本人も、経営陣もどのように実現したらいいかわからない。経営を人の心のエネルギーの面から考える研究が進んでいる。ポジティブ心理学と経営を合わせた学問分野だ。ポジティブな組織では高い生産性や成果をあげ、働く人にも高い満足度をもたらすことが分かっている。


働く人も経営者も “望んでいながら、出来ていないこと”

 働きがいを求める若者が増えている。いや、若者だけではなくて30代、40代でもやりがいのある働き方を求める人が多い。意味ある仕事をして、自分の力を発揮して、自分の考えたことを実現し、会社や組織、さらに、社会に貢献したいという気持ちをもっている人が増えてきた。数字を達成すために働くのではない。上司から言われたままに働くのでもない。自分なりの力を発揮して貢献したいと思っている人が多くなっているのだ。

自ら考え、自ら動く社員になってもらいたい

 一方、私たちはコンサルティングをしていて、経営者の声を聴く。経営者からの最も多い要望が社員に主体性を持たせてほしいという依頼。「もっと自ら主体性を持って考え、自ら動く社員を増やしたいのだが、なんとかならないだろうか?」というリクエストが多く寄せられる。経営者には切実なニーズである。昔と違って環境の変化が激しく、トップだけでは顧客や協力会社から来る要望や、マーケットでの変化がつかみ切れない。社員一人ひとりが顧客や取引先のニーズを敏感に察知し、業務を改善し、変化をつくりだす行動が求められるのだ。
 コンビニではその土地のニーズや季節行事に合わせて提供する商品やサービスを変えるのは当たり前になっている。マクドナルドのようなファーストフードチェーンも今期の赤字を契機に商品メニューを店舗ごとに変えつつある。
 現場で働く社員が主体性を持って自分で考え、提案し、自分が行動して成果を出す動きをしてほしい。そうすれば、社員が幸せに働き、満足度を上げ、喜びをつくりだせるはず。それが、企業が継続的な成長になる。そう思っている経営者が増えてきた。

なぜ働きがいをもてないのか?

 働きがい。主体的で充実した働き方。社員も求めているし、経営者も求めている。しかし、多くの経営者はどうしてそれを実現できるかが分からない。また、働く人もどうしたら充実して働けるようになるかがわからない。お互いが思っていることは極めて似ているのに、実現する方法が分からないのだ。
 どうしたら、実現できるのだろう?
 実は、「ポジティブ心理学」が回答を与えてくれる。
タイトルキム・キャメロン氏(左)と筆者(右) ミシガン大学のロス・経営大学院にポジティブ組織センター(Center for Positive Organizations)がある。写真のキム・キャメロンが率いている。心理と経営を合わせて考える優秀な教授陣が集まった集団だ。ポジティブな組織ではどのようなことが起きるかをポジティブ心理学と経営学を合わせて研究しているのだ。キャメロンらの研究により、従業員の心のエネルギーを高くすると、高い生産性をあげ、組織の目的に対して優れた成果を出すことが分かってきた。

「ポジティブ組織づくり」のすすめ

 ミシガン大学大学院のポジティブ組織センターの学者はポジティブな職場がつくりだす成果を様々な視点から研究している。
 次の図はキム・キャメロンらがコンサルティングやワークショップで行う組織開発の中核になっている考え方を示したものだ。「ポジティブ組織づくり」のキーポイントだ。
キム・キャメロン氏らの研究成果図1:Kim Cameron “Positive Leadership-Strategies for Extraordinary Performance” Berrett-Koehler Publishers, Inc. 2008 の情報を渡辺 誠が加工
 まずは、ポジティブな風土づくり。ここのでキーワードは思いやり・感謝・許しの3つだ。みんなでお互いに思いやりを持って相手を尊重し、感謝を表し、人が間違ったことをしても叱責するのではなく、それを許して次の成長に繋げる。そんなポジティブな風土をつくることから始める。
 次に、ポジティブな関係性。人とひとのポジティブなつながりを増やすのだ。そのために人の強みやうまくできていることを見つけ、認めて、さらにそのうまくできることを活用していく。うまくできることは早く簡単にできるから成功確率が高い。また、ポジティブさは伝染するから、ポジティブな人が増えると組織は高いパフォーマンスを出せるようになる。急激な変化をつくりあげることができる。
 さらに、ポジティブなコミュニケーション。その人の「いいところ」をみて、それを伝え合う。うまくいっていることをみんなで喜ぶ。また、人の行動を改める必要があるときは、ネガティブにならないように、その人の役に立つ方法でアドバイスを提供する。
 最後に、ポジティブな意味。人は意義のある仕事をしていると非常に高いパフォーマンスを挙げることが分かっている。だから、仕事の意味を再考し、意義ある仕事であることを認識してもらう。そのためには、各個人が仕事の意義を感じて、自分の仕事に誇りを持てるようになることだ。

「ポジティブ組織づくり」を実践する

 このようことを、研修やワークショップで学ぶ。学んで組織にポジティブさを引き出す方法を知った後は、実践だ。その実践が更な新たな学習を呼び起こす。まさに、「学習する組織」ができあがるのだ。
 その実践形態としてキム・キャメロンらは、マネージャーと部下との1:1のポジティブなミーティングを月に1回定期的に行うと高い効果があるということを研究論文で発表している。このミーティングが大きな違いをつくりだすのだ。月に一度ではマネージャーが大変なようだが、実際にこのポジティブなミーティングをしていると、マネージャーは楽に仕事ができるようになることも分かった。緊急に呼ばれるとか、問題対処などが少なくなるからだそうだ。
 このようなポジティブ心理学を実際の経営に活かした研究が進んでいる。「ポジティブ組織づくり」をテーマにしたワークショップやコンサルティングを通じて、組織が変わるのだ。ポジティブな行動習慣を組織の中に作り上げることができると、それが、大きな組織の成果をつくりだすことも分かった。
 次の例はキム・キャメロンたちのある金融企業での研究結果である。売り上げがあがり、エンゲージメント(会社との心の『絆』)の指標も上がり、顧客の維持率も高くなった。また、従業員は経営陣のマネジメントを高く評価するようになった。
ポジティブな行動習慣が組織にもたらした成果ポジティブな行動習慣が組織にもたらした成果
(2011年の国際ポジティブ心理学会での発表資料から引用)
 他にも多くの研究がされている。どれもがそうだが、ポジティブな組織が組織の視点から見ても、働く人の視点から見ても、高い成果を出すことが分かった。

ポジティブ心理学が、組織と個人にもたらすもの

 ポジティブ組織センターの調査によると、ポジティブな組織では以下のようなExtraordinaryな(普通を超えた)成果を出す。
  • パフォーマンスが著しく向上する
  • 営業部門では売上や利益などが著しく向上する
  • 利益率が良くなる
  • 商品やサービスの品質が向上する
  • イノベーションが加速し、予想もつかない進展が始まる
  • カスタマー満足度が高くなり、リピート率が高くなる
  • 経営陣の評価が良くなる
 また、ポジティブな組織は働く人にとっても次のような効果を生み出すことが分かっている。
  • (心の病に陥ることがなく)精神的な健康を維持できる
  • 脳が活性し、好奇心が豊かになり、創造力を発揮する
  • 上司と部下・社員間・社員と取引先などあらゆる方面での人間関係が良くなる
  • 社員が主体的に学び、仲間同士で学習が始まる。学習する組織になる
  • 感情が豊かな人が増える
  • 仕事への満足度が上がり、高いパフォーマンスをつくりだす
  • エンゲージメント(会社との心の『絆』)があがる
  • 充実度や幸せ度があがる
 つまり、組織にポジティブ心理学を適用し、ポジティブな組織をつくると、組織に高い成果をもたらすだけではなく、働く人が仕事に満足し、主体性を持って取組むことにより充実して仕事ができるのだ。