水曜日, 2月 04, 2015

IDEO トム・ケリー氏が語る「創造力に対する自信」

IDEO トム・ケリー氏が語る「創造力に対する自信」

講演名「Creativity in Organizations」


世界有数のデザインファームIDEOの共同経営者トム・ケリーが、経済産業省主催の「新事業創造カンファレンス&CONNECT」にて基調講演を行った。シリコンバレーで30年余にわたってイノベーションの最前線に立ち続けてきた経験をもとに、日本の聴衆に向けて個人や組織が創造性を発揮するために必要なマインドセットについて語った。


創造力に対する自信(Creative confidence)とは

 兄のデイビッドとともに、シリコンバレーの小さなデザイナー集団だったIDEOを世界で最もイノベーティブな企業と評されるまでに成長させてきたトム・ケリー氏(以下、ケリー氏)。同社は初代アップルのマウス、世界初のラップトップPCの開発などの初期の「製品イノベーション」から次第に「顧客エクスペリエンスや組織の再設計」を手がけるようになり、近年ではデザイン思考に基づく「イノベーション文化」の普及に取り組んでいる。
 ケリー氏は、そのキャリアを通じて、世界中の優れたヴィジョンを持つリーダーたちの知性や感性の働かせ方を観察する機会に恵まれた。その体験から、創造性を発揮するためには「創造力に対する自信」が必要だと説く。
「創造力に対する自信」は2種類の能力、「いいアイデアを思いつく」という本来誰もが備え持っている能力と「行動する勇気」で形成されます。創造力に対する自信についての本(邦題『クリエイティブ・マインドセット』日経BP社)を書くために世界中でインタビューを実施したところ、多くの人々、特に若者や組織に属する人々は、ある問題を解決できるかもしれないアイデアはあるのに、奇異に見られたり、批判されたりすることを恐れて、手をあげない(アイデアを発表しない)のだとわかりました。創造性はもともとあるのですから、それに行動する勇気が加わりさえすれば「創造力に対する自信」は生まれるのです。

「テクノロジー」と「人間性」の調和をとる

トム・ケリー
 個人や組織の「創造力に対する自信」を育てるうえでカギとなる要素の1つとしてケリー氏が強調するのは「テクノロジーと人間性の調和」だ。これはテクノロジーありきではなく、まず人々に共感し、そこから彼らのニーズを探るアプローチだ。
 そんな方法論の成功例として、ケリー氏お気に入りのこんなエピソードがある。
 ゼネラルエレクトリック(GE)ヘルスケアのMRI開発部隊を率いるダグ・ディーツ氏は、自分が開発した装置を使う現場へ見学に行き、全身をスキャンするその機械に入るのを怖がるあまり、子どもの80%は麻酔で眠らせなければ検査ができない事実を知り大きなショックを受ける。幼い患者の恐怖感を取り除くMRIを開発できないものか。悩んだ同氏は、救いを求めてスタンフォード大学のdスクールで「共感から始めよう」がテーマのエグゼクティブ教育コースを受講した。
 コースに刺激を受け、あるアイデアを職場に持ち帰ったが、予算はつかない。それでもあきらめず、社内、小児病院、子ども博物館からボランティアを募ってプロジェクトを進めた。彼らは、検査室とMRIを遊園地のアトラクションのように作り替え、技師向けに「これから海賊船に乗るよ。海賊に捕まらないようにじっとしていられるかな」といったセリフの入った台本まで用意した。
 この改良の結果、子どもに麻酔をかける率は10%にまで減り、売上増や機械の稼働率アップをもたらしたのだった。
 ケリー氏は「彼は技術には一切、手を加えませんでした。彼が設計し直したのは『体験』です」と解説し、人間性の部分に注目することの大切さをあらためて確認した。

人生を「実験の連続」と見なす

トム・ケリー
 新しいモノやサービスを生み出すためには実験を重ねなくてはならないが、実験には失敗がつきものだ。失敗がもたらす精神的なダメージを抑えるためには、組織は失敗に対して寛容であるべきだとケリー氏は主張する。
小さな失敗、舞台裏の失敗、高くつかない失敗ならばまったく構わない。そういう失敗を許容する文化を創ろうと努めてください。優れたスキーヤーになるためには、何度も転ぶ覚悟が必要。失敗は学習プロセスの一部です。失敗は成功への道なのです。
 ジェームズ・ダイソンは、世界初のサイクロン式掃除機を売り出す前に、5128台もの試作機を製作したといわれている。ケリー氏は「当てずっぽうではなく、どの試作機も1つ前のものより確実に進歩していた」と、成功するまで粘り強く失敗を受け入れたダイソンを称える。現実には5000回もの実験が許される環境は少ないとはいえ、見習うべきはその実験者スピリットだという。
何かにトライし続ける会社でなければなりません。日々、実験に取り組み、今日の学びを将来につなげるような企業であってほしいと思います。

実験やプロトタイプは素早く、安上がりに

トム・ケリー
 「実験やプロトタイピングはできるだけ多く、ただし1回毎にかけるコストや時間はなるべく少なく」が、IDEO流の考え方だ。
 その好例が『セサミストリート』のスマホアプリを開発した際の「超ローテク・ラピッドプロトタイピング」である。キャラクターのエルモの鼻をタッチすると音楽が鳴り、彼が踊り出す機能をどうしてもアプリに搭載したかったIDEOのチームは、拡大サイズのiPhone型段ボールの画面部分をくり抜き、その向こうでエルモの代わりに社内スタッフを踊らせるビデオプロトタイプを会議直前の1時間以内に準備し、プレゼンで見事にクライアントにその案を認めさせたという。
自分ではアイデアをすばらしいと確信していても、上司やパートナーはあなたと同じようにはそのアイデアを頭に描けないから、まだ迷っている。そんなときは『自分のアイデアを盛り込んだ将来イメージを視覚化して見せてあげること』をお勧めします。プロトタイプの目的は作品を仕上げることではなく、イエスと言ってもらって次のステップに行けるようにすること。そのために、どうやったら一番早く、安くできるかを常に考えましょう。

セミナー開催概要

  • セミナー名:新事業創造カンファランス&Connect!第一部「創造性とデザインと組織」
  • 講演名:Creativity in Organizations
  • スピーカー:IDEO共同経営者、Tom Kelley氏
  • 主催:ベンチャー創造協議会/経済産業省/公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会/東京ニュービジネス協議会(Connect!)
  • 共催:政策研究大学院大学/一般社団法人Japan Innovation Network
  • 開催日時・場所: 2015年1月22日、ホテルニューオータニ