月曜日, 7月 07, 2014

メッシの何がすごいのかが統計的データ分析で明らかに


世界最高の選手リオネル・メッシの何がすごいのかが統計的データ分析で明らかに



ネイト・シルバー氏といえば、
米大統領選の勝敗を全50州分的中させたり、野球選手の成績を予測するための統計ツールPECOTAを開発した人物として知られる天才データアナリストです。そんなネイト・シルバー氏が新しく立ち上げた、統計を使ってあらゆる事象を分析するニュースサイトがFiveThirtyEightで、ここでスポーツ関連のデータアナリスト兼ライターを務めるBenjamin Morrisさんが現在世界ナンバーワンのサッカー選手と目されているリオネル・メッシ選手に関するさまざまなデータを分析しまくったところ、メッシ選手は通常ではほとんど不可能な要素を両立しまくったまさにミラクルな選手であることが判明しました。






メッシはプロ選手になったときから所属しているサッカークラブのFCバルセロナとアルゼンチン代表チームで、これまで515試合に出場して396ゴールを決め、世界ナンバーワンの選手を決めるバロンドール(2010年からはFIFAバロンドール)に4度選出され、現在開催中の2014FIFAワールドカップでも、予選の3試合すべてでゴールをたたき出してアルゼンチン代表チームを決勝トーナメント進出に導いています。

FiveThirtyEightの分析によると、グループリーグ終了時点でアルゼンチン代表がワールドカップで優勝する確率は16%で、この値はホスト国のブラジル代表に次ぐ成績であったとのことです。そして、現在は決勝トーナメント1回戦が終わり、アルゼンチン代表の優勝確率は20%にまで伸びています。


サッカーのナショナルチームは1年に数回集まって一緒にプレーするだけなので、1年中同じ選手でプレーし続けるクラブチームよりも寄せ集めの集団感が強くなってしまいます。よって、代表チームとクラブチームで同じようなパフォーマンスをみせられないというのは当然のことではあるのですが、メッシは「FCバルセロナのチームメイトが一流だからあれだけ活躍できるのだ」だとか、メッシ中心の戦術を「メッシシステム」と揶揄されることもあり、さらに2013/2014シーズンはクラブチームでタイトルを獲得できず、前シーズンよりも得点数が落ち、ライバルのクリスティアーノ・ロナウド(C・ロナウド)にシーズン得点数で上回られ、バロンドールの受賞も逃したことから批判が大きくなっていました。


そんなメッシに関するあらゆるデータを収集し尽くし、それらを分析しまくったのがスポーツ・データアナリストのBenjaminさん。彼はOptaが提供している2010年のワールドカップ以降の公式戦2万2904試合分のデータから、メッシとその他のサッカー選手1万6574人分のサッカーに関するあらゆるデータを調べました。その結果、メッシは通常ではあり得ないような要素を両立しまくっており、例えばペナルティエリアの中からでも外からでもシュート成功率が高く、弱いキックでのゴールとロングシュートの両方で世界のトップレベルに君臨しており、他のプレーヤーからのアシストで多くのゴールを決めつつも独力でのゴール数やシュート成功率も世界トップで、まさにすべてを兼ね備えた選手であることが分かったとのこと。

◆得点
2010FIFAワールドカップ以降、メッシは公式戦で291得点、201アシストを決めています。同期間中に行われた2万2904試合のデータを分析し、1万6574人の選手のゴール数(縦軸)とアシスト数(横軸)を図示したのが以下のグラフで、メッシとライバルのC・ロナウドがずば抜けた成績を収めていることがよく分かります。


サッカーはバスケットや野球などのその他スポーツよりも得点が決まりづらいので、シュート成功率が高いということは非常に重要なポイントです。以下のグラフは縦軸がシュートが得点になる確率(つまりシュート成功率)、横軸が1試合平均で何本シュートを蹴るかを表しており、50試合以上に出場して、1試合平均1本以上のシュートを蹴る866選手のデータを図示したもの。この中でメッシは9番目にシュート成功率が高く、他の大量に得点を決めている選手と比べても圧倒的に効果的なシュートを蹴っていることが分かります。なお、大量に得点していながらもメッシよりもシュート成功率が高かったのはマリオ・ゴメス選手のみ。


シュートを成功させるには、シュートを蹴る角度やゴールからの距離、目の前に相手選手がいるかどうかなど、さまざまな要素が絡んでくるものです。そこで、「実際に得点した数」と「選手が得点できたであろうシーン」との差を表す「goals above average(GAA)」を算出し、シュート数・予想されるシュート成功率・GAAを一緒に並べたのが以下の表になります。この表では、2010年以降の試合でシュート数の多い20選手を並べており、GAAの数値が大きいほど「シュートチャンスを無駄にしていない」ということを表しており、メッシのGAAがダントツに高く、シュートチャンスを無駄にしていないことがうかがえます。


以下は、全選手平均、メッシ、C・ロナウドのシュートエリアごとのシュート成功率を並べたもの。これを見ればメッシがいかに広い範囲からシュートを狙うことができ、そして高いシュート成功率をたたき出しているかが一目瞭然です。


以下のグラフはペナルティエリア外からの得点数を縦軸、シュート数を横軸としたもの。グラフによるとメッシのペナルティエリア外からのシュート数は173本で、得点数は21と、シュート数・得点数ともに世界トップレベルであることが分かります。対するC・ロナウドは、ペナルティエリア外からシュート数はメッシの約2倍ほどあるものの、得点数はメッシ以下でシュート成功率はメッシよりもかなり低めです。


ワールドカップのグループリーグ・イラン戦でメッシが決めたゴールはちょうどペナルティエリア外からのシュートで、ゴールからは約29ヤード(26.5メートル)の位置。確かにゴールシーンを見ると、「この位置からよくゴールを決めているような……」と思えます。








◆独力でのシュート
サッカーではチームメートからパスを受けてシュートを決めるようなシーンと、自分でボールを運んで自分でシュートを決めてしまうようなシーンの2つがあります。メッシは時々、「プレーが利己的すぎる」と批判されることもありますが、個人でシュートまで持っていくシーンはシュート全体の44%で、これは全選手平均の46%よりも低い数値です。しかし、メッシが独力でシュートに持ち込んだ際のシュート成功率は23%で、全選手平均の5%よりもかなり高い確率となっており、頻繁に独力でゴールを決めてしまうシーンが見られるので、「利己的」と勘違いされやすいのかもしれません。

以下のグラフは縦軸がアシストなしでのシュート成功率、横軸がアシストありでのシュート成功率を表しており、赤線よりも上にいる選手は独力でのシュートの方が成功率の高い選手、赤線よりも下にいる選手はアシストからのシュートの方が成功率の高い選手になります。


さらに、メッシがシュート時にどの足を使ってどんなキックを蹴るのかは以下の通り。

・78%の確率で左足でシュート。シュート成功率は23%
・右足でのシュート成功率も23%
・ヘディングでのシュート成功率は10~13%
・シュートの8%は「弱いキック」(全選手平均6%)で、シュート成功率は27%、GAAは.026(全選手平均-.055)
・シュートの5%が「強いキック」(全選手平均8%)で、シュート成功率は36%、GAAは.251(全選手平均.051)
・シュートの12%がカーブをかけたキック(全選手平均10%)でシュート成功率は31%(全選手平均8%)、GAAは.202(全選手平均.020)
・ペナルティキック(PK)の成功率は86%(全選手平均77%)
・直接フリーキックの成功率は8%(全選手平均5%)で、GAAは.021


直接フリーキックは2014年のワールドカップ、ナイジェリア代表戦でも決めており、記憶に新しいところ。






なお、C・ロナウドのPK成功率は93%なので、この点はメッシよりも優れているとのこと。

独力でシュートを成功させるためには、相手ディフェンダーと1対1の勝負をする必要がある場合が多いものです。以下のグラフは1試合で相手選手と1対1の勝負をして勝利する確率を縦軸に、1対1の勝負を仕掛ける回数を横軸にしたもの。メッシはドリブルで相手選手と勝負する回数が他と比べて群を抜いて多く、さらにその勝率は50%超えと常軌を逸した数値がでており、「このグラフがメッシのテクニックとプレースタイルを最もよく表すものだ」とBenjaminさんは言います。


メッシと同じくらいに相手選手との勝負にチャレンジするのはウルグアイ代表のルイス・スアレス選手のみ。C・ロナウドは1試合平均5回以下のチャレンジで、その勝率は約40%なので、この差が2人の大きな違いになっている、とBenjaminさんは分析しています。なお、メッシのシュート成功率はC・ロナウドよりも高いですが、これはC・ロナウドがメッシよりも1対1で負ける確率が高いこともある程度関係している、とのことです。

◆パスとアシスト
独力でシュートまで持ち込むメッシのスタイルがよく数値で表れているため、「メッシはやっぱり利己的な選手だ」と思ったり、シュートが抜群に上手いということがデータから分かったので、「パスは平凡なレベル」と思うかもしれません。しかし、そんな想像をたやすく超えるのがメッシなのです。

メッシとC・ロナウド以外、毎試合ゴールとアシストの両方をこれほど多く期待できる選手はいません。以下のグラフは1試合ごとのアシスト数を縦軸に、ゴール数を横軸にしたもので、これによるとメッシは最も多くの得点率を保持するだけでなく、アシスト数もドイツ代表のメスト・エジル、フランス代表のフランク・リベリーに次ぐ成績をたたき出しています。


しかし、FCバルセロナは世界一パスワークの優れたチームとして知られており、「このチーム内にいるからアシスト数が多いだけなのでは?」と疑う人もいるかもしれません。以下の表はFCバルセロナでメッシと同じフォワードのポジションでプレーする(もしくはした)選手たちのパス数・パス成功率・縦パス率・縦パス成功率を記した表です。


縦パスは相手選手にインターセプトされる確率が高くなるものの、ボールを相手ゴール方向に一気に運べ、チャンスを作るには必要なものです。同チーム同ポジションの選手たちと比べると、メッシはダントツで縦パス率が多く、その成功割合も非常に高いわけですが、これは他チームの選手と比べても非常に多いもので、フォワードで縦パス数がメッシより多い選手はおらず、彼のあとにローマのフランテスコ・トッティ(2200本)、マンチェスター・ユナイテッドのウェイン・ルーニー(1800本)が続きます。

以下のグラフは横軸がパス成功率、丸の大きさがロングパスの数を表しているもの。メッシは同数のロングパスを蹴ったどのフォワードよりもロングパスの成功率が高い(54%)とのこと。C・ロナウドはロングパスの成功率が60%とメッシよりも高いですが、ロングパスの数は41本と、メッシの81本には遠く及びません。


さらに、パス交換を試みた数を横軸、パス交換の経由点になった数を縦軸とした以下のグラフを見ても、メッシが他のフォワードよりも非常に多くパス交換に参加していることが分かります。


このグラフは縦軸にゴール数、横軸には1試合中にハーフウェーラインからアタッキングサードまでのエリアで縦パスを入れる数を表したもの。これらのパスはほとんどがアシストやアシスト未遂になるようなパスであり、相手陣内での縦パス数が他フォワードよりも多いメッシが、より多くのチャンスを演出しているであろうことがうかがい知れます。


◆ボールタッチ
メッシがチームにどれくらい大きな影響を与えているかを調べるため、BenjaminさんはメッシのいるFCバルセロナとメッシのいないサッカースペイン代表とを比較しています。なぜ2つのチームを比較するのかというと、両チーム共に細かいパスワークで試合を進めるという特徴を持っており、スペイン代表には多くのFCバルセロナ所属選手がプレーしているからです。

2010年、スペイン代表チームはワールドカップで優勝し、2014年のワールドカップでは全チーム中最も早くグループリーグ敗退が決定しました。そんなスペイン代表チームは、2010年のワールドカップでは7試合8得点で優勝し、予選落ちした2014年ワールドカップでは3試合4得点しており、これは1試合平均1.2ゴールを決めているということになります。

対して、サッカーのクラブチームにとって最高レベルの試合が繰り広げられるUEFAチャンピオンズリーグでのFCバルセロナの2010/2011シーズンから2013/2014シーズンまでの成績は、47試合104得点で1試合平均2.2ゴールと、メッシのいないスペイン代表よりもはるかに多くの得点を決めています。

ナショナルチームとクラブチームを比較するのは少し平等さに欠けるかもしれませんが、スペイン代表とFCバルセロナのプレーは非常に似通っており、大きな違いはまさに「フォワードにメッシがいるかどうか」です。実際、FCバルセロナのPKとセットプレーを除いたシュートシーンの48%はメッシがシュートした、もしくは味方にパスしたものから生まれており、メッシの得点数とメッシのアシストから得点した数を足すと、FCバルセロナのゴールの約60%を占めることになります。そして、メッシのFCバルセロナでのシュート成功率は22.1%で、メッシのアシストからの味方選手のシュート成功率は18.1%(メッシのアシスト以外のシュート成功率は12.5%)と、FCバルセロナだけをみても、メッシがいるかいないかで大きな差がでていることも分かります。

以下のグラフは100試合以上に出場したサッカー選手が所属するクラブチームのシュート成功率とアシスト成功率にどのような影響を与えているのかを見るグラフ。例えばC・ロナウドの場合、出場するとシュート成功率が0.6%、アシスト成功率が2%上昇することが分かります。


さらに以下の図は各プレーヤーがチームの攻撃にどれくらい付加価値をプラスできているかを表したもので、グラフ中央の黒線より上にいる選手はチームに付加価値を与えられている選手。


チームのボール保持に関わる良いアクション(ゴールやアシスト)と悪いアクション(ミスやリターンパス)をひとまとめにし、これらのアクション(横軸)を1試合につき15回以上行う選手を並べたのが以下のグラフ。縦軸は良いアクションの割合になります。


そして最後はメッシのディフェンスについて。メッシは身長169センチと非常に小柄なサッカー選手ですが、大柄なフォワードと比較してもディフェンスに問題はないとのこと。ボール奪取のためのタックル、パスのインターセプト、シュートブロックといったディフェンスに関するプレーを縦軸、ゴールなどのオフェンシブなプレーを横軸にしたグラフを作成したところ、その他大柄フォワードと比べてもディフェンスに関するプレーが少ないということはありませんでした。


ただし、FCバルセロナのチームメートの数字と比較するとメッシのディフェンスに関するプレーの数は相当少なく、他にも「五分五分のハイボールに競りに行かない」などの欠点も散見できたとのことです。

◆結論
メッシに関するあらゆる数値を調査しまくったBenjaminさんいわく、「現在2014FIFAワールドカップでは、メッシのプレーにこれまで存在した『FCバルセロナでのプレーとアルゼンチン代表チームでのプレーのギャップ』がほとんどなくなっている」とのこと。しかし、FCバルセロナでのメッシのGAAは0.262であるのに対し、アルゼンチン代表では0.199と少し低めの値になっており、それぞれのチームでの役割の違いを考えると全く別の選手と考えてもよい、とBenjaminさん。しかし、2014年度のバロンドール受賞者であるC・ロナウドのGAAが0.175であることを考えると、メッシが代表チームでも世界一の選手になる可能性は十分にある、と締めくくっています。


調べすぎw
Lionel Messi Is Impossible | FiveThirtyEight
http://fivethirtyeight.com/features/lionel-messi-is-impossible/