火曜日, 12月 04, 2012

良品計画 1回のメール配信で売り上げ数千万アップの驚異(後編)

良品計画 1回のメール配信で売り上げ数千万アップの驚異(後編)

奥谷孝司Web事業部長に聞く、ネットビジネスの秘訣

『無印良品』の店舗とネットストア『MUJI.net』 運営する株式会社良品計画は、食品から住宅まで、私たちを取り巻くあらゆる生活雑貨を取り扱っている。そしてリアルとネットそれぞれの店舗に顧客を誘導し ているのがWeb事業部だ。

3回購入すれば離脱率はぐっと下がる

チームを率いる奥谷孝司Web事業部長によると、ここ1年半、メール配信によって催している半年に1度のプレミアムクーポンの発行で、月額3〜5%の売 り上げを達成するという。たった1度で驚くべき数字を稼ぎ出すというのだ。これは、彼らの使用するツールによって最適化した結果だ。
奥谷孝司Web事業部長
(撮影:琴條孝詩)
「現在は、それまでの購買回数によって1000円、500円、300円というクーポンを配布していますが、売り上げはむしろ上がっているので、このカタチ を変更することは考えていません。
ですが、このような分析をやっていると、同時に購入回数0回の人も抽出できてしまいます。今度はそういう人たちへどうやって購入を促すかを考えていたの ですが、そのキャンペーンとして、過去半年間に買い物を1回はネットでしたけれども最近は買ってないという人を抽出して、彼ら彼女らに『3000円以上購 入すれば送料無料にします』というようなメールを配信し、その結果を検証しています。
私たちのいまの目標は半年のあいだに3回ネットで買い物をしてほしいというものです。というのもネットストアの利用回数が3回を超えると離脱率がグンと 落ちるのです。その後継続してご購入いただける方が多いのです。
ですから、会員登録をしていただいて、まずは未購買フォローメールで1回ご購入いただきたい。その後半年のうちの半分の会員にはお誕生日が来ます。その ときに300円もしくは500円のクーポンが届きます。それでもう1度ご購入いただきたい。そして、2回ご購入いただけると、さきほどのロジックで、再び 少なくとも300円のクーポンが送られる。そこで3回目のお買い物をしていただきたいと思っているのです。
このような取り組みで、アクティブユーザーが12%、13%、14%、15%と伸びてきているのです。これは、どうやらこのような施策の効果が出ている んだろうなと思っています。結果、売り上げも増えていますので、しばらくは継続する予定です」

ネットの店構えも検証して顧客動線を最適化する

メールマーケティングで呼び込んだあと、ネットストアで買い物をしてくれるかどうかは、ストアの店構えも重要だ。彼らはその点においても抜かりなく施策 を施している。
「まずこれに関しても最新のツールを使用して、私たちの仮説を検証しています。リアル店舗でも、お客さまの動線を考えて、メインプロモーションの商材をど こに配置するか、ここに置いたけど全然効果がなかったなど、検証しますよね。それをECサイトでもやるのです。
いままでは在庫などの関係や勘で適当に商品を並べていたのです。カッコイイ企画だからやってみようとか。しかし、そうではなく、あえてツールを使用し て、その効果を見るようにしました。Webサイトのファーストビューでどこまで見えるかによって、商品の配置を替えたり、バナーの位置を替えたりなど。
それらをやってちゃんと検証する。その結果、ページビューは下がっているけど売り上げが上がるのであれば、それは成功です。また、お客さまの動線をつぶ さに観察して、あるポイントで離脱しているようであれば改善する。そういったことをコツコツとやっています。
最新のツールでは売り上げもリアルタイムでわかりますし、外部に露出した広告の効果もわかります」

ソーシャルメディアの大きな役割

最近のマーケティングにフェイスブックやツイッターはかかせないと言われる。ここまで積極的にツールを活用してマーケティングをおこなっている良品計画 も無縁ではないだろう。どのようなコンセプトでそれらソーシャルメディアを利用しているのだろうか。
「フェイスブックでの弊社のファンは、いま87万人まで伸びています。前述のように『MUJI.net』の会員にはメールでクーポンを配っているのです が、お客さまが『無印良品』に接触するメディアとして、いまはもうソーシャルメディアを無視できません。
であれば、ここでもクーポンを配ろうと。10月の無印良品週間にフェイスブック上で『10%OFFのクーポン差し上げます』とキャンペーンをやったので す。クーポンは1万数千枚発行しましたが、同時にファンの数がどんどん増えていって、気がついたらカジュアルファッションの最大手を抜いていました。
だからといって、ソーシャルメディアがすぐに売り上げに結びつくとは思っていません。私が考えるに、ソーシャルメディアの活用目的はおおまかに2つあり ます。一つは、ソーシャルメディアのIDを活用したお客様との絆づくりです。そしてもう一つは、特にフェイスブックで言えることですが、安価にグローバル マーケティングができるということです。
最近の事例ですが、まず私たちがご提供しているサービスでマイムジ(MyMUJI)というプラットホームサイトがあります。これはフェイスブックやツ イッターなどのIDでログインすることで、無印良品の気になる商品に「ほしい!」「持ってる」などのアクションや、口コミを投稿することができるソーシャ ルレビューサービスです。
ここは、MUJI.netのIDでなくてもけっこうなので、あなたがお持ちのソーシャルIDで入っていただいて、おいしい、おいしくない、使いづらいな ど何でも書いてくださいという主旨。自分が持っている商品のボタンを押す、またはボタンを押した人をフォローすることもできます。ソーシャルメディアに情 報を流すこともできます。
しかし、これをやったからといって売り上げが上がるわけではありません。私たちがやっていることは投稿されたクチコミの分析です。そうやって健全な売り 場を作ろうと。それにやはりいまはクチコミが人の消費行動の背中を押しています。
また、おいしいおいしくないという情報などをいただくのに金銭を提供しているわけではなく、お客さまが自発的に貴重な意見を書かれる。ですから非常に ピュアな意見が書かれます。
私たちは、最新ツールを使い、それらの意見をビッグデータから取り出して分析します。そうすると、何歳ぐらいの人が書いてるのか、どの商品がクチコミが 多いのかなどがわかります。
代表商品であるアロマデュフューザーのクチコミが圧倒的に多いというのもそうですし、食品など、うまい、からい、甘い酸っぱいなどと、感想を書きやすい 商品だとクチコミが多く、逆に洋服などは官能商品ですからなかなか書く人がいないということもわかります。そして、これらの意見を商品部にフィードバック しています。
食品では、たとえばグリーンカレーですが、本格的な辛さがいいとか、具がたっぷり入っていていいなどと書かれています。バターチキンカレーでは、おいし いけれど、もう少しバターの風味がほしいというような意見もコメントでわかります。いままでだったら、こういう意見は、ユーザーに出席いただくモニター会 を開かなければわからなかったのです。それがツール上で簡単にわかってくる。
ほかにも男女軸で意見の分析もできます。男性のコメントと女性のコメントをわけてみると、意外だったのが、とても辛い弊社のグリーンカレーを大好きと 言っているのがほとんど女性だったことです。男性は苦手なんて言ってる人もいます。こういうことが荒っぽくてもわかってくる。それらの意見を商品部がどう 考えて次なる商品に活かしていくかが次のポイントになります。
また私たちの”思い込み”が否定されることも多いですね。たとえば、持ち運びできるLEDライトの場合、キーワードとしてテキストマイニングして出てき たのは、”子ども”と”枕元”だったのです。なぜかというと、このライトは、購入者はお母さんですが、使用者は子どもだったのです。震災があって以来、な にかあったときにぱっと手に取れるLEDのライトを枕元に置いて寝ますというコメントが非常に多かったのです。それ以外でも、子どもが夜おトイレ行くとき に使えるし、少しずつ光量が調整できるので、このLEDライトが気に入ってますというコメントが多かった。
しかし、私たちがいつもバナー広告でやっていたことと言えば、照明特集などで、かっこいい雰囲気で、ふわっとした光を放つライトという感じだったので す。
実際は、本当のニーズを考えると、子どもがベットに寝てて、枕元で光っているほうが、現実的な雰囲気なんですね。集められたデータを分析するだけでこれ らのことがわかってくるのです」

新しいメディアも積極的に利用する

最近はスマホを使った新しいサービスも登場している。たとえば、iPhoneでのPASSBOOK(パスブック)。これはアップルが最新OS上で新しく 始めたサービスで、店舗などが電子クーポンなどを配布できる。『無印良品』もそれら新しいサービスは、取り合えず利用してユーザー・インターフェイス (UI)など使い勝手を確認しているという。
「パスブックはアップルさんからの後援もあって、やらせていただきました。やはりこれからはスマートフォンを通してのコミュニケーションもやっていかなけ ればなりません。自社でもアプリ開発などを構想していたのですが、パスブックが発表されたので、これはUI含めて知っておきたいと思っていたところでし た。
そこで、アップルストア銀座店に集まるiPhoneファンに無印良品の有楽町店まで来ていただこうという企画を催しました。具体的には、ブールドネー ジュというフランスのお菓子を1000名にプレゼントするというものです。
パスの発行数は、GAPやアディダスなど今回参加した企業でもっとも多かったですね。ここでおもしろかったのは電通さん作った仕組み、Passbook 形式でのクーポン・チケット発行・管理サービスアプリでした。
私たちが発行したクーポンの消し込みはそのアプリが入ったiPodタッチだけででき、ほかの機材はいっさい必要なかったのです。これは大きい。今後は現 在使用しているクーポン発券機のようなものも必要なくなる。もっと手軽にクーポンが発行できるようになり、機動性が高まっていくと思います。

今後はリアルとネットでCRMを突き詰めていく

良品計画のWeb事業部は、さまざまな施策を積極的におこなっている。それは技術の革新とともに、その手法も変化していく。ただ、メールマーケティング においては、すでに最適化されて成果を上げている。今後はどのような手法で、また、どのような方向に行こうとしているのだろうか。
「私たちWeb事業部のテーマは、CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)なので、来年度くらいにはネットの買い物だけではなく、店舗の買い 物も分析できるようにしていきたいですね。
そしてソーシャルメディア。その役割は双方向と拡散があります。ただし売り上げに直接的には貢献しない。とはいえここからは5〜10%という流入があり ます。重要な流入経路なんですね。これをGoogleなどのクリック広告=ペイドサーチでやった場合で媒体換算するとけっこうなコストになります。
そして、これら私たちの活動成果は社内でも共有するようにしています。すべてのアクティビティを出して、どんなアクションしたのか、クリックしたの か、"いいね!"したのか、コメントしたのか、シェアしたのか、これらを全部アグリゲートして、クリック比率など出すんです。
ソーシャルメディアを可視化して他部署や店長に対しても伝えています。そうすると店舗でも、お客さまが来て『フェイスブック見たんですよ』と言われたと きに、ちゃんと対応できるのです」
ソーシャルメディアに過度な期待をせずともその成果は確実に可視化して社内で共有する。そして、それら成果を元に、次なる戦略へと進む。そこにはリアル とネット、それぞれの店舗に対する施策も必要である。そのなかで日々進化する技術に目をやり、いいものは彼ら自身の手で貪欲に食らいついて導入し、検証す る。
その繰り返しが新商品へとフィードバックされ、その結果、再びお客さまがソーシャルメディアで拡散していく。350万人の『MUJI.net』の顧客満 足度を高めるため、これら好循環を支えるのが最新技術であることは間違いない。しかし、それ以上に技術を使いこなし、ストーリーを作り上げる『良品計画』 スタッフのがんばりと能力は決してウソをつくことがないのである。